試練:過酷編 続
「なにやってんのよっ、このバカっ!」
イーナ姉の怒声が叩きつけられた。
いきなりのことに驚いたと同時に自分自身が惚けていたことにも気づく。
決断を迫られて思考を放棄した。
その事実に全身が熱くなる。恥、と言えばいいのか。自分の感情の意味もわからず、とにかくすべきことをした。
背後だ。
背後から魔獣が襲いかかってきていたのだ。
「愚弟っ!」
何かが頭上を通過した。
ミァハさんを抱き抱え、地面を転がったとほぼ同時だった。
ジンキで強化した視力が何かを捉える。
蔦と言えばいいのか。
あるいは、木の枝のようにも見えた。
それが鞭のようにしなって魔獣に突き刺さっていた。
「こっち!」
アスラが叫ぶ。
と、同時に無数の火球が飛び交った。
炎が暗闇を一瞬だけ照らす。
無数にいる魔獣達の正体が見えた。
一見すると狼だ。
それが、俺たちを囲うように隊列を組んでいる。小憎らしいのは各々が適切な距離をとっていることだ。いつでも飛びかかれるように狼の前にはそれぞれ道ができていて、おれたちの隙を窺いながら襲いかかってきている。
ふと、敵の正体が判明すると同時に違和感を覚えた。
こいつらじゃない。
ミァハの傷は狼の咬み傷では断じてなかった。むしろ、ジーナ姉が魔獣にやったような刺し傷に近い。血が止まらないのは傷口が抉られるように刺されたからに他ならない。
まだ他にもいる事実に気づき、本当に惚けている場合じゃないと自分自身を戒めた。一分一秒気を抜けばやられるのだ。
なら、自分の限界を、いや、その上を引き出せなければ生き残れるはずがない。
「アスラっ!」
「! うん!」
最初から全力全開だ。`
おれは、強制執行を発動しようとして、
「…ダメっ!」
イナンナさんの一喝でスキルの発動を止められた。
鼓膜どころか全身を衝撃で貫かれたのだ。声に魔力が籠っていたのだ。周囲の魔獣も衝撃で動きを止めたが、おれたちにも十分なダメージが入ってしまった。
「イナ、ンナさん、いきなりなにをっ!」
「…あなたの力の使い方、間違ってる」
イナンナさんの掠れ声が酷くなった。
それでも伝えなければならないことがあったんだろう。わけがわからなかったがこの状況ですべき事は一つだ。
「アスラ! イナンナさんのとこに行く!」
「わかった!」
応じると同時に、再度火球が飛び交った。
未だに声の衝撃で動けなくなった魔獣達の多くが火だるまとなって悲鳴を上げた。
その間を縫うようにおれはイナンナさんの元へと向かう。
「…大丈夫?」
滑り込むようにイナンナさんの足元にへたり込んだ。
イナンナさんの周囲にはアスラや姉二人よりもずっと多くの魔獣が隙を窺っている。それでも、近づかない。飛びかかればその瞬間に仕留められるのがわかっているからだろう。
「ええ。教えてください、どうすればミァハさんを治せますか?」
「…察しがいい、のね。でも、私にはやり方まではわからない」
「え?」
「…大和の人があなたと同じスキルを持ってた。その人は戦場で傷ついた兵士でも全て治していたの。あなたならきっとできる」
え、それだけ?
決死の思いで来たのに助言ですらない助言を聞いて、おれは今度こそ固まってしまった。
いや、融資で人を治すってなんだよ?
医療費なんて目的じゃ融資出来ないんですけど。
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