試練 九
「試練の内容は簡単だ。三日間、迷宮の中で過ごしてもらう。その間のことは一切合切、諸君らの自由だ。ただし、流石に迷宮に対する攻撃や下層への侵入は許されない。その時点で試練は失格だ。死にに行きたいなら話は別だが、明日にも戦士を目指す諸君らは違うと私は思っている。ここまでの説明でわからないことはあるか?」
淡々とした説明には余分な部分は一つもない。若干嫌味は入っているがユーモアという点で見ても許容範囲だし、何より、危機喚起の目的は十分に果たせている。
少なくとも、この説明を聞いていたおれは絶対に下層に行こうなんて考えないし、最悪の手段としてアスラと協力して迷宮自体をお釈迦にしてしまおうなんて手段を取ることはできないと自分自身を戒めることになった。
いや、思ったよりも話し方が上手い。こんな風にわかりやすく説明してくれるなら教師役として長老の家で人気になったんじゃなかろうか。他の人たちはどこか感覚的に話すし、細かい説明は省くか要領を得ない場合が多いのだ。
まぁ、もちろん子供を攫うような輩なんだから絶対に教師役は出来ないだろうが。
というか、こいつがなんで試練のスタッフと参加しているんだろうか。
いや、自分でも言っていたが長老の差金である。であるが、いくらなんでもこの采配はおかしいんじゃないだろうか。
「ちなみに、この三日間は諸君らは私の監視下におかれる、なに、心配するな。先ほど説明した禁止行為に及ばなければ干渉はしない。もちろん、諸君らが腹を空かせようとも泣き喚こうともだ。ただし、諦める場合はすぐに言ってくれ。その時は責任を持って地上まで送り届けよう。その場合、諸君らはひよっこのままだがね」
あくまで公正な言葉である。試験官としてのポジションを全うする宣言でもあり、味方ではないという明確な線引きも行っている。
ただ、その信用度がマイナスなのが問題だった。
そもそも、さっきの敵意がこもった視線の意味もある意味正当だったのだ。まさか、自分自身を犬に堕としたクソガキのお守りをすることになるなんてカケラも思っていなかったんだろうから。
いや、おれだってそうだ。なんでアスラを攫おうとしたクソ女と一緒にいなきゃならないのかカケラもわからねえんだが。
「質問」
我ながら敵意丸出しの態度と声だったと思う。
いや、もちろんそれが狙いだったのだから問題なし。ただ、珍しく姉二人が驚いた表情を浮かべているのが印象的だった。アスラも何故か同じような表情を浮かべているは不思議だった。ああ、そういえばこいつ寝てて犯人の顔とか知らなかったんだっけ。
「なんだ、《《トール君》》?」
「とにかく、三日間ギブアップしなけりゃ合格ってことでいいんですよね」
にやりとラウラは笑みを深めた。
「その通りだ。ただし迷宮内はなにが起きるかわからない。たとえば暗闇の中で不意打ちを受けることもあるし、予期しない罠に引っかかることもある。そう言った不測の自体を想定しながら生き残ってくれ。ああ、もちろん、三日間過ごしたのに失格にするなんてことは決してしないから安心してくれたまえ」
この女。
おれは明確に言葉の裏に隠れた意味を読み取って、
「それなら安心です。ただ、一緒に迷宮に潜ったとしても僕らは僕らで精一杯なので、なにかあっても一人で対処してくださいね。不測の自体は誰にでも起きることでしょうから」
そう言い返した。
殺気に近い圧を感じたが真正面から受けて立つ。
こうして、本当の意味で試練が始まったのだった。
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