試練 七
「…うん、大丈夫。だいたい片付いたと思う」
か細い声だったがしっかりと聞き取れた。
何をしたのかはわからない。わからないが、仕事は完了したと彼女は言っているのだ。
森に潜んだ戦士候補生達。
そのほとんどを排除したということだ。
「何をしたんですか?」
「…背後から一刺し」
意味がわからない。
傍で見ていた限りでは祈るような仕草で天を仰いでいただけにしか思えなかった。ただその姿はあまりに儚げで、関わること自体が罪のような印象を受けたのだ。だからこそ、声をかけることもできずただ見惚れるしかなかった。
「だいたいってことは、まだ仕留めきれてないやつがいるのね」
「…うん。ミァハの予想通り」
「あいつらね。どこにいるの?」
「…まだ森に潜んでるけど、迷宮に進んでる。私の奇襲に気づいたから急いでるみたい」
「そ。なら予定通りにいけそうね」
予定って何だよ。
ミァハさんとイナンナさんの会話を聞いているとなんだか自分自身が何とかの手のひらの上にいるような気分になってくる。思えばミァハさん自身が接触してきたのも初めから思惑があってのことだったんだろう。
もしかすれば長老からの差金なのかもしれない。
直接聞いても教えてくれないだろうから、聞く気はないがある程度信用してもいいんじゃなかろうか。
というか、イナンナさんの言葉が本当なら俺たちが束になってもこの人に敵わないのだ。ましてや相棒であるミァハさんの実力も似たようなものと考えれば、煮るのも焼くのもご自由にという状況。従う他ないのである。
「愚弟。何をぼうっとしている」
と。
なぜかジーナ姉が抱きついてきた。背後から首元へ手を回し、力強く抱き寄せられた。背中に柔らかい感触を感じたが、まぁ、さすがに姉なので疚しい心を持つこともない。ないが、うん、やっぱり成長ってすごいと思った。
「いや、なんかやることないっていうか」
「愚弟。そんなことを考えるからお前はダメなんだ。ダメダメだぞ」
「ダメダメかー」
「ダメダメだ」
ゆるいノリにますます脱力感が増してくる。
ただジーナ姉が言いたいことはわかる。
まだ試練ははじまってすらいないのだ。
姉はダメダメとおれを責めながら、耳打ちをしてきた。
「イナンナのスキルは影打ちだ」
「え?」
「さっきの祈りに騙されるな。あれは、影から相手の意識の隙をつく。警戒していても喰らう可能性は高いから、常にジンキを纏うことを忘れるな」
ジーナ姉を見つめる。真剣な表情を浮かべながらおれを見ている。
この言葉の意味がわからないほど流石に鈍くない。というか、俺の考え自体は間違っていなかったようだ。
今も、イーナ姉がミァハさんとイナンナさんと会話していいる。若干ひりつくような雰囲気を感じていたが、それは試練が開始したからだけではないことに気づく。お互いがお互いを警戒している。
魔力の動きからもそれが読み取ることができた。
ため息を一つ。
どうやら、この状況も一筋縄ではいかないらしい。
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