道中 二
「……ひどい」
か細すぎて聞き逃しそうな声で彼女は言った。
いや、下手をすると風の音を聞き間違えたのかもしれない。そう思うほどに目の前の女性が発したにしては弱々しい声音だったのだ。
「…ごめんなさい。だって、自己紹介もしようとしないんだもの。私たちは知っていてもトールくんやアスラちゃんは会ったこともないでしょ? 年上なんだからせめて自分から話しかけるくらいしなきゃ」
「……こわい」
「何言ってるの。同じ村の子達なんだから、いつも通りに接すればいいでしょう?」
もじもじとした仕草と見た目のアンバランスさのせいで見ているこっちも調子が狂う。脳がバグを起こしているのかもしれない。ミァハさんに促され、彼女はおれたちと向き合った。
女性にしてはタッパがでかい。というか、太っているわけでもないのに明らかに特定の部位がデカすぎる。しかもとびきりの美人ときているから、目が合うだけでどきどきしてしまう。何気に、生まれ変わってから初めて女性として意識する人物に出会ったのかもしれない。
「…はじめまして、イナンナ、です」
「あっと、はい、はじめまして。透です」
「……」
「……あの、なんでしょう?」
なんだこの空気。
イナンナさんは何故かじっとおれを見つめている。見下ろす視線自体は不快には感じない。表情もさっき見た時よりずっと柔らかい雰囲気に変わったような気がする。と言っても、無表情は変わらないが。
「…はじめまして、イナンナ、です」
「は、はい! はじめまして、アスラです!」
おれから視線を外し、イナンナさんはアスラに向き合った。何の予兆もないフリだったので、驚いたのかもしれない。アスラは少し声を裏返らせてしまっている。
その様子もじぃっとみつめて、
「…よろしく、ね」
イナンナさんはアスラを抱きしめた。
アスラは驚きすぎて固まってしまっている。
ふむ、とおれはあることに気づいた。
どうやら子供好きらしい。
「あら、よかったわね。アスラちゃんのこと、気に入ったみたいよ」
「残念ね、トール。あんなにじっと見つめてたくせに、相手にされないなんて」
「愚弟。男は振られて強くなる。父もそう言ってた」
姉二人の言動は無視する。
イナンナさんはアスラを優しく抱きしめ、かすかに笑みを浮かべていた。それだけなのに不思議と絵になるもんだから見入ってしまいそうになる。
「改めて紹介するわ。彼女は私の相棒よ。私よりも戦闘力は高いし、魔力の扱いにも長けてるの。けれど、少し人見知りだから話しかけてくれると嬉しいわ」
「…よろしくお願いします」
ミァハさんの紹介に、イナンナさんは少し伏し目がちになった。…ああ、照れてるのか。
そこまでわかってなんとくだが親近感が湧いた。
「それで、作戦の件だけれど」
そこで、ミァハさんは意味ありげにイナンナさんを見た。
「…私なら、もっと上手くやれる」
あくまで端的な物言いで、イナンナさんは自己アピールを行なった。
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