試練 三
迷宮は、言わずもがな魔獣が溢れる場所である。
魔獣がどこから現れるのかは定かではないが、無数に現れる理由についてはある程度解明されているのだそうだ。
宝を守るため。
それは金銀財宝の類を指すこともあれば、それ以上の何かを指す場合もある。とにもかくにも来るものを拒むこの場所は、どのような目的を持った者に対しても等しく苦難を与える場所なのである。
たとえ、宝を求めなくとも。
足を踏み入れた時点で相応の代償を支払う覚悟が必要なのだ。
その代償は足を踏み入れた者達自身の脅威によって決まるのである。
「…わかった?」
わからない。
そう言いたかったがなんとなく言えなかった。考えろと彼女は言ったのだ。それを放棄した時点で彼女の助力は受けることが出来なくなるだろう。流石のアスラも首を捻りながらも考えている様子だった。
妙な言い回しではぐらかされたわけではないとは思う。
それだけ、ミァハさんの表情は真剣だったからだ。
「…宝が大事?」
アスラにしてはいい質問だな、と思った。
要点を絞った質問自体は思考の放棄とは受け取られないはずだ。とにかく、一つ一つ解き明かしていくことで答えは見えてくるはずだ。
「そうね。でも、今回、私たちが迷宮に入る理由ではないからそこまで重要とは言えないでしょうね。実力を過信して宝を求めるというなら話は別。相応の代償以上の被害が出すのは間違いないわ」
「えぇ…?」
アスラは眉根を寄せて考え込んだ。
言っていることはわかっても意味を噛み砕けていないんだろう。おれにだってわからない。ミァハさんもわざとこういう言い回しを続けているのだ。
欲をかきすぎるなということなら当然意味はわかる。けれど、今の状況で伝えるべきことなのかと言われれば正しいとは思えない。所謂教訓めいた話じゃないんだろうか。
そもそも、代償が必要だというのもある種の教訓でしかないんじゃないだろうか。
ならば、と質問をしようとして、
「っとに、薄感悪いというかセンスがないってゆーか、ほんと、だめねあんた」
誰かが、おれの首に腕を回した。
会話に意識を集中しすぎたらしい。近くに誰かが来たのにも気づかないとは思わなかった。反射的に振り解こうとしたが、力が強すぎてびくともしない。背中に柔らかい二つの何かが押し当てられているので、背後にいるのは女性であることだけはわかった。
「頭の回転が鈍すぎる。折角のチャンスを棒に振るのは姉として見過ごせない。少しは反省しろ、愚弟」
背後から別の声。
そこで思い出した。この場には身内がまだ二人いたことを。
「イーナ姉さん、ジーナ姉さん…?」
疑問系だったのは明らかに声が違う気がしたのだ。
しかも、気配というか雰囲気もまるで違う。
なによりも首に回された腕は、
「なによ、まさか姉の顔を忘れたのかしら?」
九歳の女子のものではなかった。
明らかに成人女性のそれだったのである。
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