地獄の四苦八苦 続
「儀式は三日三晩の間ダンジョンに潜伏し、生き残ることだ。魔獣と戦わずともよし。あくまで生き残ることが条件だが、まぁ、当然魔獣の襲撃は絶え間なく続く。俺の時も結局戦い続けた記憶しかないな」
「…あー、そう、なんだ」
「強さ自体は大したことはない。必要なのは持久力と精神力だ。いつ襲われるのかわからない緊張感、絶え間なく続く襲撃に対する絶望感。全てが得難い経験だ。そのためにはまず体力、精神力、魔力が必要になる。トールにはジンキの方だが、とにかく肉体を酷使することに慣れるのが一番の対策になる。お前は本当に筋がいい。この一週間の間、一度たりとも鍛錬で手を抜かなかったからな。父は誇らしいぞ」
「そりゃ、どーも…っ!」
突然の賞賛もトレーニングを継続している現状では気にもならなかった。適当に返事をしてスクワットを継続する。もはや、それが当たり前になっていたし、意識しなくてもジンキのコントロールが出来るようになっていたのだ。
ちなみに背中におぶったバスにゃんは何故かさらにデカくなっており、それ以上に重量が増している。どんな原理かもわからなかったが、正直それ自体どうでも良くなっていた。とにかく、鍛錬をし続ける。それ自体は、特に苦でもなかったのだ。
「おおー。珍しい、アグにゃるが褒めるなんて」
「おれは褒めて伸ばす主義だぞ?」
「いやいや。基本誰に対しても辛口にゃことしか言わにゃいくせに。でも、本当にトールは筋がいいよ。根性も根気もどっちもあって素晴らしい。君、本当面白いよ」
好き放題言ってくる大人を無視する。スクワットが当たり前になっている現状に思うところは当然あった。あったが、それ以上にジンキの扱い方が面白くなっていたのだ。
魔力の奔流とは違い、目には見えない無色の力。
魔法を使うことはできないし、魔法のような特別なこともできないがそれ以上の可能性が秘められているのだ。
とにかく、肉体を治すことができる点が素晴らしい。今だって筋繊維どころか関節の骨を何度骨折・摩耗したかわからない。けれど、こうやってスクワットを続けられるのはジンキによって瞬時に治しているから。
その上、肉体の性能を飛躍的に向上させてくれる。馬鹿でかい猛獣をおぶったままスクワットできるのもそのおかげだ。
…いや、ほんと、何度同じことを考えてんだおれ。
思わず馬鹿らしくなってくる。けれど、そうでなければそのままぶっ倒れそうだったのだ。
ひたすらスクワットや腕立て、腹筋などの基礎トレーニングをやり続けている。なんで異世界で前世と同じトレーニングメニューをやらにゃならんのだと文句も言いたかった。
それでも、効果自体は実感できるのだからやめられない。
七歳児の自分ができることはこれしかないのだから。
「とにかく、このペースならどうにかなりそうだな。試練まではあと二週間はある。もう二、三日鍛錬を続けたら実戦形式に切り替えよう」
「あれ? 随分急にゃ変更だね? ずっと鍛錬するはずじゃにゃかった?」
「ああ。昨日、イーナとジーナと会ってな」
あ?
思わぬとこで姉二人の名前が出てきた。
というか、おれたちの修行をしている間に集落に帰っていたのか。色々な疑問は浮かんだが、スクワットの方が大事だ。聞き耳だけは立てておいて、とにかく筋トレに集中する。
「あいつらも今回の試練に参加するんだが、驚いたよ。今のままだとトールとアスラに勝ち目がない。さすがはシーナだ。あそこまで仕上げるとは思っていなかった」
集中しようとしたが、できなかった。
腰を下ろすのを止め、父へ視線を向ける。
父は相変わらず飄々とした表情のまま、言った。
「どうした? まだ出来るだろ?」
不思議そうな表情を浮かべているので、逆に冷静になる。吹き出した汗と乱れた呼吸が酷すぎて、すぐに再開するのは不可能である。おれはバスにゃんを丁寧におろしてから全身にジンキを巡らせた。
その間も父は不思議そうに首を傾げていた。
「父さん」
「どうした?」
「少しは説明しろぉっ!」
全力でぶん殴った。
はじめて親父を殴ったのだ。
ここ数週間で溜まりに溜まった不満が爆発したのだった。
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