地獄の二番煎じ 続々
「戦士の儀式まで一月もない。お前たちは子供だが、やるべきことを絞ってやればどうにかなるはずだ。そのためにはしっかり食べてしっかり寝る。そこから見直していくぞ」
巨大な黒猫にじゃれつかれるおれを見ながら、父は淡々と言った。
体調不良のせいでなされるがままにされるしかなかったが、悪くない。もふもふはもちろん素晴らしいし、野生の魔獣にしてはなぜかいい香りまでする。むしろ、このまま眠っちゃうんじゃないかというほど心地よかった。
「どうだ、バス。息子は大丈夫そうか?」
「ダメだにゃ。人間が無茶をするからに、体内の経絡はずたずた。しばらくは飯食って寝とくのが一番かにゃ」
「それは困ったな。トールなんとかできないか?」
…いやいやいやいや。
突っ込むところが多すぎる。
というか、こいつ、しゃべるのかよ。
「ええ! しゃべるの、こいつっ?」
「ああ。こいつはおしゃべりなんだ」
「紹介くらいしてほしんだがにゃー。その子もこの子も名前がわからにゃいと治すもんも治せにゃいし。面倒だから直接聞くかにゃ。君、にゃまえは?」
黒猫しゃべるしゃべる。
いや、ナ行がにゃに変わる以外は普通なので気にならないが馬鹿でかい猫に話しかけられるのはそれはそれで恐ろしいもんである。わちゃわちゃと全身を撫で回されるのもなんだか不気味なことのように思えてきた。
だからと言って動けなくて何もできないんだが。
「…透」
「トールね。うん、ぴったりのにゃまえだ。君、あんまり無茶しちゃ駄目だよー? あのままだったら内側から爆発してたところだったんだぞ?」
「えぇ…」
爆発って嘘だろ。
人間は爆発しないと思ったが血反吐を吐いて意識を失ったことを思い出す。もしかするとあれのことを言っているのかもしれない。確かに内側から急激な力の暴走というか、それまで円滑に循環していた《《何か》》が勝手に動き出したというか。
どう言ったらいいのかわからない感覚だと思ったが、あることに思い至った。
あれだ。前世で調子に乗って酒を飲み過ぎた時に近い感覚だ。
ある一線を越えるまでは心地いいがそこを越えると地獄に転落する。しかも後遺症付きで。そう考えれば今の状況を受け入れられる気がした。それと対処方法も同時に思いつく。
何事もほどほどに、だ。
「でも、ま、君、筋は悪くにゃいと思うよ。うん、あの一発は驚いた。まさか、こんな小さな子供がボクを一発でぶっ飛ばすなんて」
まんまるの瞳がこちらをじいっと見つめてくる。
なんだか嫌な視線だった。
全身を撫で回す肉球の感触がなかったら逃げ出していたかもしれない。もふもふとは違うぷにぷに感も癖になるのだ。
そこで気づいた。
そのぷにぷに感の中に、おれが感じていた何かが宿っている。
「…これ」
「気づいたかにゃ? これは魔力じゃにゃいんだよ」
黒猫はにんまりと笑みを浮かべた。
「今日からボクが先生だ。にゃに、大船に乗ったつもりでいてくれたまえ。君を立派にゃ戦士にしてあげる」
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