地獄の二番煎じ 続
魔法が使えないことはデメリットでしかないと考えていた。
スキルは確かに独自性というか特異性があるのは間違いない。自分が前世で職務としてやっていたことに類似する点もあり、その上、貸し借りなんてよくわからない概念までも勘定に加えられる。明らかにすごいスキルだと思った。
けれど、どうしても気に食わないところもあったのだ。
このスキルの真価である強制執行。貸し付けたものに対して借主を強制的に自身の思い通りに操る力。しかも、貸し付けた度合いにおいて強制的に魔力を強化することもできるのだ。
その効果は強烈無比。
事実、当時五歳児程度だったアスラが魔獣の群れを一方的に殲滅してのけたのだから。
もちろん、そんな膨大な力を行使したのだから代償はあった。
アスラはその時の後遺症で半年近く魔力を使えなくなったのだ。その上、寝たきりにもなった。
だから、アスラは同年代の連中と比べて発育が遅い。それでもおれと同じくらいの背丈はあるが、鬼の一族の中では明らかに小さ過ぎた。
まだ七歳なのだからと村の誰もが言ってくれる。
けれど、同年代の連中と並べば嫌でもわかるもんなのだ。
他人を自分の思い通りに操るってことはそれだけの代償を支払わせる行為なのである。それでもアスラと相棒を組んだのは、生涯の友として付き合う覚悟があったからだ。一度犯した過ちを繰り返さないため、そして一度目の過ちに対する贖罪をするためにも必要だと思ったからだ。
だから、魔力に変わる何かを得ることができたのはこれ以上もないほどの僥倖だった。スキルに頼らなくても戦士として戦うことができるのだから。
けれど、どうにも現実は甘くない。
圧倒的な力を手に入れたという優越感ほど信用ならないものはない。
また、一から力を磨き直さなきゃならいのだ。
「起きたか」
父。
うすらぼんやりとした頭を奮い立たせ、どうにか状態を起こした。
体が重い。鉄の匂いと味がまだ口の中に広がっていて、咽せてしまった。父はそれを黙って見ている。
「ごほ、ここは?」
「森の中だ。しばらく、ここで生活をする」
「ここで?」
「長老にも母さんにも許可はとってある」
相変わらずの唐突さ。
そう言う問題じゃなくてと言いたくなったが、言葉を放つのも億劫でただぼうっとすることしかできなかった。ふと、気になることがあった。
「アスラは?」
「あっちでバスと遊んでる」
「バス?」
「さっきまで遊んでたろ。あいつの名だ」
遊んでた?
頭の中に疑問符が湧くと同時に、力が抜けた。
起き上がっている気力も消え、そのまま寝転んだ。
「? どうした、もう直ぐ飯ができるぞ?」
「お父さん、さっきも食ったでしょ。…いや、それよりバスだっけ? それって」
「ああ。さっきお前がじゃれてた黒いやつ」
にゃーご、と猫撫で声が聞こえた。
どすんどすんと大きな足音と地面の揺れが近づいてきた。
時折、子供のはしゃぐ声が聞こえて、おれは今度こそため息を吐いた。
「お、起きたか、トール! こいつ、もふもふだぞ!」
喜色満面のアスラ。黒い猫にしがみついてもふもふを堪能しているようだった。さっきまでの殺し合いはなんだったのかと言いたくなる。
平然としている黒猫を見て、どうやら真面目に戦っていたのはおれたちだけだったと思い知らされた。
なにがチートだ。
まだまだ程遠い地点にいるのだとわからされてしまった。
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