地獄の一丁目 終点
姿勢だとか、精神を落ち着けるだとか、場所だとか、そんなものを考えている暇はない。普段とまるで違う状況であっても集中することは出来るのだ。
その感覚だけは七年の歳月をかけて学んできたのだ。
呼吸だけに意識を集中させる。
目の前で魔法が炸裂しようとも、肉球で押し潰されそうになっても。どんなことが起きてもそれだけに集中する。専心。己の命すら天秤から外し、それだけに没頭することではじめてわかることがある。
何をしようとも死が迫るこの状況では、意外なことにすんなりとうまくいった。
さらに加速する思考。普段は無我になることだけに夢中になっていたが、不思議なことに思考は普段通りにすることができる。
世界は制止しているかのように見えて、おれだけがその中で生きていると確信できた。だからだろう。自身の内部。腹に抱える違和感がさらにひどくなった。内臓の許容量を超えた食料の摂取によって、甚大なダメージを負っている。子供だからといって無視できるはずもなく、当然丸一日近くまともに動くこともできそうになかった。
思った以上に深刻な状況に驚きつつも、それを解消するための行動を起こすことにした。
やり方は一度見ている。
けれど、おれは見ることは出来るのに魔力を生み出すことはできない。
なら、似たような何かで代用すればいいのだ。
そうしなければ死ぬ。なら、やるしかないじゃいか。
一度決めればあとは簡単だった。まるではじめからそこにあったかのように、魔力とは別の何かが全身に溢れ出すのを感じる。思えば、長老や父、そして、伊藤咲奈は何かを感じていたのだろう。一度たりとも止めろと言わなかったのは、何かがあることを見越していたからなのか。
腹の内部にあった違和感が消えた。何かが内臓の機能を強化し、一瞬で消化・吸収させることに成功しのだ。
あ、なるほどと思わず納得した。一度使ってみればある程度の使い方がわかる。
これは、魔力なんて目じゃないくらい便利なものだ。
「 」
咆哮。
炸裂寸前だった魔法が、今、まさに放たれた。
もちろん錯覚だ。本当に放たれたなら気づくまもなく消し炭になっている。それだけの火力があるはずだと確信できた。込められた魔力が尋常ではなかったから。
残念だが、今、おれの体から溢れた何かは魔法を防ぐことはできない。やはり、魔力とは別系統の力なのだ。おそらく、外に出した瞬間に霧散するような脆弱さ。多少は緩和出来ても、直撃したら死ぬ予感しかしない。
けれど、体内に残したままなら話は別だ。何より、これはおれの肉体を極限を遥かに超えた状態へ持っていくことができる。そういう類の力だと確信した。
全身に巡らせ、そのまま駆け出す。
あとは一瞬だった。
一歩踏み込む。それだけで黒猫の懐に入り込むことができた。
思考は未だに加速している。
黒猫どころかアスラですらもおれが移動したことに気づいていないはずだ。制止していた周囲が徐々に動いていることに気づく。時間制限もあるらしい。まぁ、当然かと納得し、全身に何かを巡らせて思いっきりぶん殴った。
衝撃。
瞬間、時間が元に戻った。
「…やっべな、これ」
ぶるりと武者震いが来た。
ぶん殴った時の感触があまりに会心の一発過ぎたことと、目の前の光景に我ながら感動してしまったのだ。
黒猫は相当の巨体だったらしい。
おれの一発で吹き飛んだ勢いで、背後の木々を軒並み薙ぎ倒して行ったのだ。
たぶん百メートル以上。
随分と小さくなった黒猫を見ながら、自分がこれをやったんだと言うことを実感した。
なんだよ、おれもやればできるじゃん。
初めて、異世界チートの気分を味わうことが出来たの瞬間だった。
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