地獄の一丁目 続々々
あれだけ食って立てるのか、という驚きだけじゃない。
明らかに膨れ上がっていた腹が一瞬で凹んでいる。その変化ももちろん驚いたが、何よりも驚いたのは魔力のうねり方だった。
腹を中心に異常なほど魔力がうねり、迸っている。
「お前、その腹」
「くるぞっ!」
アスラの叫び。
反射的に起きあがろうとしたが腹が苦しくてそれどころじゃなかった。なので、寝返りを打つ要領で転がる。それだけでもなお吐きそうになったが、次いで来た衝撃に思考だけははっきりとした。
やっぱりでかい。
見た目は猫そのもので猫パンチを振り下ろした姿も愛らしさはあったが、その衝撃と被害は洒落になってない。地面が抉れているのだ。
あのままだったら、潰れたカエルのようになっていたかも知れなかった。
「なにやってんだバカ!」
「うる、せえ!」
アスラの悪態に悪態で返す。
軽やかな動きが憎たらしい。おれの倍以上食ってたくせに種族が違うからっていくらなんでも、と思ったところで気づいた。
あの魔力のうねり、それが原因だ。
すでにアスラの腹から魔力のうねりが消えている。けれど、迸る魔力の力強さは過去一だ。あの肉から栄養を吸収したんだろう。しかも、あいつは消化といった。
つまり、魔力で消化したということなんだろうか。
それとも魔力で胃の消化と腸での吸収を強化したってことなんだろうか。
どちらにせよ、魔力ってのはおれが想像していたよりもはるかに融通が利く代物なのかもしれない。
けれど、悲しいかな。そういう力の使い方を知ったとしても、おれにはなんの意味もないのだ。だって、おれ、魔力使えねえし。
「ダメだ! おれ動けねえから、スキル使うぞ!」
「ああっ? やめろ、バカ! 巻き込まれんぞっ!」
アスラが慌てた様子で制止してきた。
アスラの言葉は正しい。おれのスキルを使って、アスラを操れば黒猫の化け物をなんとかできるはずだ。けれど、それと同時に強化された魔力の余波が洒落になっていないのだ。
こんな寝転がったままの状態じゃ戦闘に巻き込まれるのは目に見えている。
かといって、おれはこいつみたいに魔力で消化吸収するなんて器用な真似が出来ないんだから一か八かでどうにかするしかない。
そう思っていたが、
「まずっ…!」
魔獣から膨大な魔力が渦巻いているのに気づいた。
魔法だ。
いや、魔獣が魔法を使うなんて話聞いたことはなかったが、目の前の現実がこれまでの常識を否定している。スキルを発動する時間はない。加速する思考、スローモーションで動く世界。
走馬灯のように過ぎゆく記憶の波の中で、一つだけ自分が毎日やってきたことを思いついた。
精神統一。魔力を感じないおれには全く無意味な行為。
それでも決して諦めなかった行為だけがこの状況でおれが出来るたった一つのことだった。
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