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アグニルとシーナ


「長老っ! その子は大丈夫なのかっ?」


 老人に抱き抱えられながら、おれは最初に会った大男の家に戻ってきた。

 赤ちゃんの視点ではここがどこで何なのかもまるでわからない。不思議と視力に問題はなかったがどうにも身体がうまく動いてくれないのだ。だから、移動の間も髭面の老人を見続けることしかできなかった。…なのに、これまた不思議なことにに気分は悪くなかった。移動の時の振動も心地よくて、あくびを何度か噛み殺したほどである。

 そんなうたた寝気分だったおれを叩き起こすような大声と勢いで大男はおれを覗き込んできた。

 心底心配そうな表情に肩の力が抜けた。なんというか、さっきまで警戒していた自分が馬鹿みたいだと思ったのだ。


「大丈夫じゃ。詳しいことはこの子から聞くとええ。…おっと、そう言えば名前を忘れておった。そろそろ答えてくれるかな?」


「あ、すいません」


 そういえば結局名乗っていなかった。

 改めて自分の名前を思い出す。…いや、記憶がないとかそういうことじゃない。ないんだが、どうにもこのまま名乗るのが躊躇われた。生まれ変わった時点で別人なのだから全く別の名前を名乗るべきなんだろうか。

 かと言って都合よく偽名を思い浮かばなかったので、正直に名乗ることにした。


横島透(よこしまとおる)といいます。改めて、よろしくお願いします」


「トールか。おれはアグニル、でこっちが」


「シーナってんだ。今日からあんたの母ちゃんになる。よろしくな」


「シーナっ、お前…!」


 何故か感動したと言う表情を浮かべる大男、いやアグニル。シーナと名乗った女性はどこか照れ臭そうな表情を浮かべている。うん、受け入れ体勢は万全に出来ているようである。その事実に安堵しつつ、自分の立ち位置をどうしようかと考える。

 …我ながら嫌な考え方だ。どうにも社会人としての習性というか、職業柄のいやらしさが滲み出た気がする。

 そんな小細工を考えるよりも、


「っと、そろそろ乳の時間か。ジジイ、トールをよこせ。イーラとシーラと一緒に飲ませる」


 もっと考えなければならないことがあった…っ!


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「あん? なんだい?」


 ぼよんと柔らかい感触。長老からシーナさんに手渡されたと同時に巨大な質量に押しつけられた。でかい。不思議と下心は湧かず、羞恥心が異常に湧き上がってきた。頬が熱い。おそらく顔は真っ赤になっているはずだ。


「いや、あの、ですね。確かに身体は赤ちゃんですけれど中身は三十五のおっさんでして。いや、自分でも何言ってるかわからないんですが、そういうのはちょっと遠慮したいと言うか」


「あん? なんだい、はずがしがってんのかい?」


「いや、あれです。おれも大人みたいなもんなんですってば…!」


 必死の訴えにもシーナさんは怪訝そうな顔をするだけだった。いや、でも、この人もなんで平然と母乳をおれに飲ませようとしてるんだ? 血のつながらない他人の赤ちゃんだし、なによりしゃべるんだぜ? 不気味だとか生理的に無理だとか思わないんだろうか。

 

「三十五で大人ねえ? こう見えて、あたしは八百歳超えてるんだけど」


「え?」


 思わず目を疑った。

 シーナさんはラテン系の美女のような容姿をしている。スタイルは抜群だし、抱き抱えられているから肌の調子も良く見えたが毛穴ひとつない。褐色の肌はみずみずしく、掘りが深く整った顔立ちはハリウッド映画の女優としても十分に通じるだろう。ただ一点、額の角だけが真っ当な人間ではないことの証明のようにも見えた。

 いや、それにしたって八百歳って。

 冗談なのか本気なのかわからず、視線を巡らせると長老と目が合った。


「ワシ、二千歳を超えとる」


 いい笑顔でそんなことを言われ、おれは曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。


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