謝罪
長老の話はそれで終わりだった。
結局はこれまでと変わらない生活を送るということ。結果だけ見れば今までと変わらない。けれど、意識をまるで変える必要があるということだ。これまでの日常に対して疑いを持ち、子供には関係のない大人の関係性に関わっていく。
三十代のおっさんなら嫌でも考えなければならなくなることだ。うんざりした気分になるが、まぁ、その経験を活かすことは出来るだろう。ただ、問題はおれが子供でしかないことだ。
見た目七歳児にまともに対応する大人はほとんどいないはずだ。長老はおれの事情をある程度知っているからこそ現状について話をしてくれたに過ぎない。両親も事情は知っているが、それでも理解しているとは言い難い。
父や母にとって、子供とはあくまで子供なのだ。
養子でしかないおれに対しても姉達と変わらぬ愛を注いでくれた。そこに疑いはないし、ありがたいとも思っている。思っているからこそ、おれはおれとして家族を守るために行動したい。
そのためにすべきことは。
「おい、なんだよ用事って」
うすらぼんやりと森の方を眺めていたおれは、思考を一時停止して声の主に向き直った。
アスラ。
相変わらずぶすっとした表情でいる。
まぁ、この表情の何割かはおれのせいであるのは間違いないが。
ここは、集落の北に位置する丘だ。丘というよりも山といった方がいいかもしれないが西の森とは違い、魔獣もいない安全地帯である。標高もさほど高くなく、子供の足でも一時間もあれば頂上に辿り着けるような場所。
その中でも広場のように整地された場所が、俺たちが今いる場所である。
「悪いな。夕飯前だってのに」
「今日は鍋なんだ。とっと帰りてえから早く言え」
相変わらず食い意地が張ってやがる。
思わず吹き出しそうになったが堪えた。ここからはへらへら笑ってていい状況じゃない。アスラの言葉通り、勿体ぶらずに言うしかないのだ。
「ごめん、またお前を使っちまった」
迷宮での強制執行。
こいつとの友情を担保として実行し、こいつの意思に関係なく戦わせたことである。過去にも一度同じ謝罪をしている。その時は二度とスキルを使わないと約束していたのに、それをあっさりと破ってしまったのだ。
その謝罪である。
「前に約束したろ? 二度と使わないって。けど駄目だった。おれが堪えきれなくて、本当にごめん」
「…お前、少し言い方考えた方がいいぞ」
「言い方?」
「いや、まぁ、いいけどさ。わかってるよ、今回はしょうがねえだろ」
呆れたようにアスラは言う。
けれど、許してくれるのは間違いないようだと我ながら思った。
思ってしまったのだ。それと同時に、気分が重くなる。
謝罪をする側が許しを得られるのか考えること自体が卑しいと思うし、これからおれがいうこと自体がぶっ殺されても文句を言えないようなことだからだ。
「お前が気にしているのはわかるけどさ、まぁ今回は仕方ないってことで許すよ。だから、頭なんか下げる必要は」
「重ねて言う」
「ない…重ねて?」
アスラは怪訝そうに眉根を寄せる。
それはそうだろう。それまでの会話の流れからはまるで不自然な繋ぎだ。おれだって逆の立場なら意味不明すぎて困惑する。けれど、言わなければならない。
肚に力を入れて、
「これからもお前を使わせてくれっ!」
言った。
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