祭りの後
「つまり、彼らだけだと?」
ひりついた空気にかつての会議を思い出す。上席からの重圧とパワハラそのものだったガン詰に近い雰囲気。二度と経験したくはないと思っていたことだったが、まぁ、現実ってのはこんなもんだろうと諦める。
まさか七歳の子供をこんな場所に立ち会わせるとは、とは長老に対する恨み節はもちろんあったが。
ここは長老の家だ。
あの誘拐事件の翌日。現場に居合わせた者がほぼ全員集められている。戦士候補生達も同様で、当然アスラのやつもいる。
アスラ。
あの事件の後、あいつはすぐに伊藤咲奈に連れ出された。治療やおれのスキルによる後遺症の対処も行なったらしいが、大事には至らなかったらしい。らしいというのはあいつと再開したのがこの場でのことだったからだ。挨拶一つ交わす前に、こうして公聴会が開始されてしまったのだ。
ただし、主犯であるあの黒い外套の女はこの場にいない。他の黒い外套を纏っていた連中もだ。
「そうじゃ。あの者らの記憶を覗いたがアウラによる暴走でしかなかった。誘拐に関しても行き当たりばったりでの。当番としてわしの家に来た時に、たまたまアスラが目に入ったから連れ去ったそうじゃ」
「へぇ、それは驚きですね。そんな行き当たりばったりなのに、誰にも悟られずに迷宮に忍び込んだんですか」
「誰にでも不注意はある。普段から森には近付かんようにいい含めておったからな。数年前に潜り込んだ者もいたが、今回の件まで誰も忍び込まなかったことの方がある意味おかしかったのかもしれん。いや、一重に戦士たちの努力の成果じゃな」
すっとぼけた答えにさしもの伊藤咲奈も無言になった。
いや、マジで傍で聞いているおれたちでも呆れるほどのすっとぼけっぷりである。
ようは、あくまで村の中の諍いでしかないと言いたいのだろう。
人間排斥派とかなんか物騒な連中との関わりがあることで大和とかいう面倒な連中との関わりを持ちたくないってのが本音だったりするのかもしれない。伊藤咲奈を見ているとそういう思惑もあるんだろうなと思わずにはいられなかった。
本当にあの女は信用ならないのだ。
「今回の件は村の中でも大戦で身内を失った者の犯行じゃ。《《ワシ》》も含めて、そういった者が多いことはわかっておろう。昔も似たようなことはあった。長い年月だけでは解決できないこともあるんじゃ」
「それこそ、あなたの口からは聞きたくない言葉ですね。それに、私はこの村で七年過ごしてきました。その間に、アウラという名前すら聞いたことがありませんでした。これはどういうことなんでしょう?」
「出戻りというやつじゃ。あの娘は村の外で生きていた。大戦のころの恩義を返してきたらしい。暫くぶりの村でかつてのことを思い出してしまったんじゃろう」
「そんな出来すぎた話を信じろと?」
「なにを言う。すべて事実じゃ」
ばちりと火花が散った気がした。
空気は重くなるばかり。おれにとっては正直どうでもいいやりとりを適当に聞き流し、アスラの元へどうにか近づけないかと隙を伺うしかなかった。
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