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魔法とは


「は? コツなんてあるわけないじゃん。そんなことよりとっと飯食ってクソして寝ろ」


「……そっか」


 姉の言葉に軽い絶望を覚えながら、おれは夕飯を食べるのを再開した。絶望したのは何一つ参考にならなかったからではなく、姉のあまりの品性のなさのせいだ。

 どっかの居酒屋の親父でももっとまともなことを言う。

 いや、それっぽいことを言われてお茶を濁されるのも嫌だったが、それにしたって可愛い弟に対してこの扱いはあんまりじゃないだろうか。もう一人の姉は姉で何を考えているのかわからない。黙々と夕飯をかきこんでいるだけである。だけなのに、というか、だけだから、空皿の数がエグいことになっている。

 うちの家庭は飯に関してはおおらかだ。

 父もよく食うし、母もよく食う。むしろ、おれとジーナが異常に少食とさえ言えた。


「なんだ、魔法ができないことを気にしてんのか?」


 むしゃむしゃと口いっぱいに飯を頬張りながら、父は器用に話しかけてきた。いや、行儀が悪いだろ。くちゃらーではないことだけが救いだが、母の鋭い視線はそれを許していないことを物語っていた。父は気づいていないが。


「お前らの歳なら気にすることはねえよ。俺だって使えるようになったのは、そうだな、十四か十五を過ぎた頃に…」


 他人の失敗談なんてどうでもいい。おれが出来るようになるにはどうすればいいのかが大事だ。確かに心遣いはありがたかったが、そういうのは求めていないのだ。

 いや、出来ないからと追放される未来を想像しなかったかと言えば嘘になる。けれど、ウチに限ってそんなこと気にする必要もなかった。

 それだけは本当に幸いである。


「そうそう。あんたは、全然使えなくてあたしに泣き付いてばかりだったわね。成人式で恥かきたくないとか言って、何度夜中まで付き合わされたことか」


「それでも、今じゃそれなり魔法だって使えるようになった。大切なのはやり続けることさ。出来ないからと何もしなければ何にもならないけれど、出来ると信じてやり続ければ形にはなるし、形ができれば中身を注ぎ込める。それで初めて一人前になれるのさ」

 

「あ、それ、長老が言ってたやつだよね父さん」

 

「そ。受け売りだけど、おれはこの言葉が好きなんだ」

 

 ジーナの横槍にも父は動じない。

 まぁ、言っている言葉の意味自体はわかる。わかるが、前世を含め40年以上生きている上で言わせてもらえば、そんな真似をし続けられるほど人生は長くもないし、誰も待ってくれなかった。…いや、ダメだな。どうにも前世の感覚で物事を話してしまう。目の前で食卓を囲う家族との時間が、今のおれの現実だってのに。


「とりあえず、練習に付き合ってよ。もう何年もやってるのに一度も感覚を掴めないんだ」


「ああ、いいぞ。父さんに任せとけ」


「じゃあ、外で待ってるから」


「は? 今からか?」


「うん。お願い」


 呆れ顔で俺をみる父親に頭を下げた。

 …我ながら子供に戻ったのに成長したもんだと思う。前世の頃は父親に対してこんな風に頭を下げたことなどなかった。

 けれど、社会人を経験したことで教えを乞うということの意味を十分に理解できたと思う。前世でだって、子供のころ、あるいは新入行員の頃に出来ていたらもっと違う人生を歩んでいたかもしれない。

 そう、真剣に頭を下げれば、


「しょうがないな。すぐ食べるから、ちょっと待ってくれ」


 誰かが必ず力になってくれる。

 それはもちろん、家族だったり親しい人の場合が多い。けれど、大人になってもそれは通じるものなのだ。その繰り返しで、人はより大きくなることができる。それを知るまでに三十年以上掛かってしまったが。

 おれは、何度も頭を下げ続けようと思う。


 結局、その日も特訓したがおれが感覚を掴めることはできなかった。

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