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天性の差は天性では埋められない

 魔法。

 

 異世界転生のど定番中のど定番はこの世界にも存在する。しかも、言葉そのままに火を燃やしたり、風を吹かせたり、大地を揺らしたり、水を生み出したりとなんでもありだ。

 その存在を教えられたのはつい数年前のこと。

 父と母が集落を狙う魔獣の群れで暴れ回る光景を見たことがきっかけだった。


「全ては呼吸からじゃ。ただただ呼吸だけを意識して、他のことは全て忘れてしまえ。その果てに、本当の自分がおる」

 

 長老は坐禅のような姿勢をとって、ゆったりと息を吸っては吐いてを繰り返している。おれの周囲にいる子供達も同じことを繰り返していた。まるで宗教団体みたいだと思ったが、おれも同じように取り組んでみる。

 呼吸に集中し、他の全てを忘れ去る。

 いわゆる瞑想というやつだろう。前世でもやったことはあるが習慣づけする余裕もなく、三日坊主で終わってしまったような気がする。

 ゆったりと息を吸い、吐く。

 それだけに集中しようにも、周囲の誰かの呼吸が気になってしまう。

 ただ集中力が足りないのはもちろんある。けれど、それだけじゃなくて、


「あ、できた」


 これである。

 おれが死に物狂いで集中しようとする傍で、一瞬で掴む奴がいるのだ。それも一人二人じゃない。

 おれ以外の全員があっという間にコツを掴んでしまうのだ。

 出来た奴らが増えるたびに周囲が騒がしくなる。囁き合う声から喋り合う声、笑い合う声。子供らしい明るい声が今は煩わしいっつーか、うるせえ。邪念塗れな心をまっさらにするためにひたすら呼吸に集中、て、触んな! 頬をつねんな! 膝を指でさわさわするんじゃねえっ!

 

 

「今日はここまで。よう頑張ったの」


 周囲からちょっかいをかけられまくっていると今日の授業が終わってしまった。


 愕然としているおれを嘲笑うかのように周囲の連中が我先に室内から出て行った。あのクソガキども。あっという間の犯行にブチギレそうになったが長老の視線で我に帰る。いや、まぁ、怒るほどのことじゃない。所詮子供がやったことだ。子供がやったことだが、真剣な人間をバカにするのは許す必要がない。というか、おれも子供だ。よし、ぶっとばす。

 我ながら完璧な論理的思考が完成したと確信して走り出そうとして、


「トールは残れ。続きをやるぞ」


 長老の言葉を聞いて座り直した。


「本当に現金な奴じゃな、お前さん」


「わかってて言ったくせに」


 おれの言葉を聞いて長老は肩を落とした。呆れているのだろう。そんなことどうでもいいので早く教えてくれないだろうか。

 長老はもう一度だけおれを見てから、他の子供達を外へ出した。


「昼はばあさんが用意しとる。腹一杯食ったら広場に行くじゃんじゃぞ!」


 はーい、と大合唱。

 ぞろぞろと出ていく仲間を見送って、おれは長老と向かい合った。


「お前さん、いつも居残りばかりで飽きんか?」


「全然」

 

「そうか。なら、もう一度やって見なさい」


 姿勢を正し、深く呼吸を開始する。

 周囲に誰もいなくなったおかげで集中できている気がする。けれど、やはり何かを感じることはない。というか、おれの中には何もないと言うことだけ確信できた。

 それでも、続ける。

 しばらくやってみて、何も感じないのに、


「そこまで」


 長老は中止を宣言した。


「ええっ? なんか、コツとか教えてくれるんじゃないのっ?」


「コツはない。ただ実践あるのみ」


「だったら」


「もう夕飯時じゃ。また明日来なさい」


 そう言って長老はおれを外へ連れ出した。言葉通り赤い夕日が見える。

 またか。

 おれは長老に「ありがとうございました」とだけ言って、そのまま外へ出た。

 これで何度目だろうか。

 結局、おれは魔法を覚えることができないでいた。


読んでいただきありがとうございました!

明日も投稿予定ですので、また見てください!

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