七歳時の仕事は意外と大変だ
「あのクソババア、いくらなんでも酷くねえかっ?」
「完全に同意。いくらなんでも横暴すぎ」
「いや、朝ちゃんと起きなよ。夜中に何してんの、二人して」
「「あんたには関係ない」」
「ほんと仲良いよね」
朝食を終えたおれ達は母の一喝で家を追い出され、今日も今日とて長老の家へと向かっていた。母に抱かれて通っていたこと昨日のことのように思い出す。赤ちゃんから幼児、現在は小学一年生程度の体に成長したおかげで自由に歩けるようになったのは我ながら感慨深い。どうにも大人の精神性を持って子供になると日々の成長が楽しくて仕方がなくなるのだ。だから、こうして外に出かけるだけでもとても楽しい気分になるのだった。
そんな感動とは無縁であろう姉二人は足取り重く、気怠そうな態度を前面に押し出している。
「まったくさぁ、どうしてあんなジジイのとこに毎日毎日行かなきゃなんないのさ」
「ちょっと長生きしてるからって偉そうすぎ。もう少し謙虚に生きることを学んだ方がいい」
「それな」
好き勝手な物言いに呆れ半分、クソ生意気さに感心半分。同意する気もなかったので半ば聞き流して歩を進めた。
おれたちの家は村の中でもハズレの方にある。というよりも明らかに不自然なほど集落から離れていた。
稲というにはあまりに長すぎる穂を伸ばした農作地が延々と続き、その合間を縫うように農道を抜けた先に本来の集落があるのだ。不思議なことに集落の外縁には石造りの塀があり、門番までいるのだ。
うわ、村八分かと自分の家の異常性に気づいた時は思ったがどうにも違う。
むしろ、
「おはよ、おっちゃん」
「はっ! おはようございますっ!」
別方向にやばいのかもしれない。
「ごきげんよう」
「はっ! おはようございますっ!」
「お、おはようございます」
「はっ! おはようございますっ!」
いや、なんだよこれ?
これで数年の付き合いになるのに門番たちと一切の雑談をしたこともない。毎朝挨拶を返すだけの存在。何度かいたずらをしたこともあった(イーナとジーナが)が、なされるがままで逆らうこともなかった。
何度目かのイタズラで母さんにバレてめちゃくちゃに怒られた(何故かおれまで)のが昨日のことのように思い出せる。
屈強な門番がおれ達みたいな子供に好きなようにさせる理由は、恐らくは両親にあるのだろうとは思う。それがなんなのかは今のところわからないが。
門番の脇を抜け、門をくぐる。
「おお、今日もよく来たなぁ」
そう言って声をかけてきたのは、これから農作業に向かう格好をしたおばちゃんだ。背中に籠を背負って、手には鎌を持っている。このおばちゃん以外にも似たような格好をしたおばちゃんが何人もおり、収穫の仕事をしに行くのだと分かった。
ここに来るまでの間に見た農作物を思い出す。あれを刈り取るとなれば、相当な重労働だろうなと他人事のように思った。
「おはよ、ばあちゃん」
「おっすおっす、ばあちゃん」
「あ、おはようございます」
いや、イーナ。お前さっきからふざすぎだろ。
おれが視線を向けるとイーナは不思議そうに首を傾けた。もちろん惚けてるだけだ。こいつは何故かボケたがる性格なのである。
姉のボケに突っ込むと面倒臭いことになると弟は経験的にわかっているので無視する。
おばちゃんはおれたちのやりとりに気づくはずもなく、
「おはようさん。他の子らも長老んとこ行ったから、お前さんらも気をつけていくんだよ」
挨拶もそこそこにおばちゃん達は続々と門を潜って外へ向かっていく。
他の子というのは、当然おれたちと同じような子供のことである。この村では長老が先生の役もやっているのだ。長老の家は学校の役割も担っている。
集落の一番奥に長老の家はある。
おれたちは毎日そこに通っているのだ。
「あーだり、サボらね? あたしら行ったって意味ないし」
「山がいい。今日は父様も東の湖に行ってるし、山越してもバレない」
「いや、ここまで来たんだから行こうよ。それにさ、二人は行く意味なくてもおれにはあるんだから」
「今日こそ、魔法を覚えたいんだ」
そう言って、おれは気合い十分で長老の家に向かった。
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