七年後
「トール、ジーナ、イーナ! はやく起きなさいっ!」
大声に急かされて寝ぼけ眼を開ける。
朝の日差しが眩しくてまた瞼を閉じたが、一度意識が覚醒したおかげですぐに起き上がることができた。まだ気怠さが残る身体を敢えて動かして、布団から立ち上がる。伸びのひとつもすれば気怠さも消え、普段と変わらぬ状態になった。
いや、若さってのはやっぱり素晴らしい。
今となっては遥か昔のような気がするが、あの頃は起きるだけでも相当な気合いが必要だった。起きても酒が抜けなくてフラフラしていたし、なにより気分が最悪だった覚えがある。
毎日ノルマのことを考えて行動していた頃とは大違いだ。やるべきことはあるものの、それはあくまで生きるために必要なことなのだから。
必要のない運用商品や融資を誰に売りつけるかを考える必要がないのが何より尊いものだと思う。
「んー」
「むー」
爽快な朝に感動していると不機嫌そうな声が二つ、ほぼ同時に聞こえた。
最高の気分だったのに少しテンションが下がる。というか、またか。掛け布団を一気に取り上げて、中にいる少女二人を声を怒鳴りつけた。
「イーナ姉、ジーナ姉! 朝だから起きろっ!」
縮こまって眠っているのがイーナ。大の字で堂々と眠っているのがジーナ。
二人とも随分と不機嫌そうな表情で呻き声を上げている。この二人は朝が弱い。というか、夜な夜な二人で何かをしているのだ。
こうやっておれの寝床に忍び込むのもそのひとつ。毎日ではなくとも結構な頻度で入り込んでくるもんだからこっちとしてはうんざりしている。もちろん、それを直接伝えているのだが、当然の如く無視されている。
なんでも、弟は姉の奴隷らしい。
「んー、あー。…かーさんにうまいこと言っといて。あたしもう少し寝る」
「自分で言えよ。朝飯抜かれるぞ」
「…私の分食べていいから」
「馬鹿言うな。母さんに怒られるのはおれだぞ。ほら、とりあえず布団から出て。片付けらんないからさ」
おれの言葉に、あー、とかうーと答える姉二人。
こうなるとしばらく動かない。というか、マジで起きない。
いつも通りながら死体みたいに動かない二人をもう一度だけ睨みつけ、母さんからの叱責を受けないようにするしかないと自身に言い聞かせた。
「ほら、こっち手を回して」
「んー?」
むにゃむにゃとよくわからないことを言っているジーナを担ぎ上げる。
おれよりもガタイはいいが、女性であるため筋肉量が少ないだろう。何度もやっているためにコツを覚えたおかげで、特に苦もなく持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこである。そのまま居間に運んで、母の鉄槌を下してもらうのだ。
「おはよう、トール。まったく、またこの二人は寝てんのかい」
「おはよう、母さん。イーナも持ってくるから」
「そこらへんに転がしときな。ったく、この娘らは誰に似たんだか」
ぶつぶつといいながら《《シーナ母さん》》は朝食を並べていく。《《アグニル父さん》》は仕事でまだ帰ってきていないようだ。最近、村の外で魔獣が出たからと討伐に出たのである。
魔獣。
この世界における害獣である。異世界転生ものではお約束のモンスターだ。
「むぅ。…私を後回しにした」
「いや、起きてるなら自分で立ってくれよ」
「やだ。早く運んで」
「はいはい」
ちゃっかり起きていたイーナに呆れたが、逆らうのも面倒だったので担ぎ上げた。
そのまま、居間に着いたらジーナと同じところに転がした。
「トール、先食べてなさい」
朝食の準備を終えた母は二人を睨みつけながらどすどすと荒々しい足音を立てて、やってきた。おれはそれを見ないようにして席につく。
湯気のたった朝食を見ながら、一言。
「いただきます」
これが、七歳になったおれの日常である。
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