死の行方 十
『私の名前は弁天。あなたなら意味はわかるわね?』
神様の名前。
前世の記憶が正しければ龍神様だったか。そのまんまである。
偽名の類かと思ったが、この場でおれを騙す理由がない。というか、そんなことよりも。この龍はおれの前世の世界を知っている。
彼女は自分のことを知って欲しいと言った。
うまいなと思った。むしろ、おれの方が教えて欲しくなっている。
「ああ。神様との契約なんてはじめてだ」
スキルの発動条件は整った。
あとは簡単だ。
稟議の申請も約定書の準備も必要ない。
条件とそれに必要な分の魔力を算定。算定根拠は直感のみ。我ながら適当だったが条件を足すことで問題なし。
貸し出す分の魔力残量は十分にある。
あとは、
「やれ、ベンテン!」
おれの合図と同時に巨大な炎の塊が生まれた。
強烈な光に思わず視界を塞ぐ。
それと同時に、衝撃と熱波が襲ってきた。ベンテンの背に全身を押し付けるようにしがみつく。金属質で不快な悲鳴を荒れ狂う風が攫っていく。焼かれた視界が徐々に色が戻っていくのを感じ、うっすらと瞼を開けた。
「…お見事」
のたうち回る巨体。
化け物は全身が火達磨になりながら苦悶の悲鳴を上げている。巨大なミミズみたいな群体は崩れ、落下。そこかしこで火柱が上がっている。煙が風に運ばれ、目に沁みてきた。むせそうになり、口元を腕で覆う。
勝負は一瞬で決した。
化け物は焼き尽くされた。もちろん、迷宮も無事だ。眼下で燃え上がる群体の残骸を見てもわかる。不自然なほど木々が燃えていない。ジンキで強化した目で見たから間違いない。まぁ、落下によって折れたりしているので完全に無事とは言い難いが。
『おかしい』
ぽつり、と一言。
ベンテンがつぶやいた。
目の前の光景に気が緩んでいたので一瞬うんざりした気分になる。けれど、彼女が言うんだから間違い無いだろう。
「えっと、一体何がおかしいんだ?」
『簡単すぎる。それに迷宮の奥にいるはずの本体まで届いてない。いや、違うわ。届いたのに燃え尽きてない? …まずい、先に寄生先を見つけたんだわ!』
急降下。
さっきまでの余裕が嘘のように急変した。一直線に燃え盛る化け物の死骸へ向かっている。いや、違う。おそらくは迷宮に向かってるんだ。
止める間もなく迷宮の入り口へとみるみる接近していく。
急激な加速で遠のく意識を必死に繋ぎ止めながら、おれは見た。
燃え盛る迷宮の入り口。
群体の骸を蹴散らすようにして、何かが這い出てくるのを。
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