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死の行方


 薄暗い岩肌の隘路を抜ければ、広大な空間が広がっている。

 相変わらずどういう仕組みなのかおれにはさっぱりわからないが、入る度に景色が変わっているのはある種の感動すら覚える。そりゃ、これだけ作り込んだものを壊されるんだから堪ったもんじゃないんだろう。

 青い空が広がり、清々しい風が吹いている。

 遥か彼方に広がる水平線。

 地下にあるはずなのに、まるで閉塞感がない。そこまでならまだマシだけれど、一番の異常は足下にあった。


 水である。

 

 地面を踏みしめた感触がない。かと言って柔らかい何かを踏んでいるような感触もない。なにも踏んでいる感触はないの立っているというこれまで経験したことのない感覚に呆気にとられてしまった。これが浮いているという感覚なんだろうか。

 圧倒的な非日常感。

 フレイヤは真面目に迷宮主をやっているのだ。


「ふむ。随分と凶悪な。初手から皆殺しにするつもりかの?」


「少しでも甘さを見せれば全部ふっとばされるから。ええ、どこかの誰かさんみたいに」


「むぅ」 


「あの、皆殺しって?」


「いますね、ぞろぞろと。随分と物騒な連中が」


 どうやらおれだけが状況を理解できてないらしい。

 伊藤咲奈はうすら笑いを浮かべながら周囲を眺めている。いや、違う。目が明らかにぎらついている。睨め付けるよう視線には殺気が込められていた。


「なるほど、どこまでも見えているようでいて見えてない。姿隠しの細工が施されているわけですか。…相変わらず魔力も使われていない。どうなっているのかまるでわかりませんね」


 ぞっとする。

 周囲に広がる水平線を見ても、おれにはそこに何かがいるなんて思えなかった。けれど、長老と咲奈の反応を見るに間違いなくいるのだろう。しかもワクワクしているのがいただけない。それだけヤバイ化け物がウヨウヨしているということなのだ。

 そんなところに彼女はおれ達を招き入れた。その上、長老とのことが教訓になっているとも言ったのだ。

 つまり、


「どうせ何かするつもりなんでしょ? それなりの対応策は用意させてもらったの」


「警戒しすぎだろ…」


「今までの行いを悔いなさい」


 冷たい言葉とは裏腹にフレイヤはおれの腕を抱えたまま離さない。

 もしかすると何かがあった時におれには被害が出ないように備えていてくれるのかもしれない。それでも警戒するのは、まぁ、確かにこれまでの行いを考えてみれば妥当なのかもしれないと思った。

 当然長老と伊藤咲奈には手心を加える気はないんだろう。それだけ迷宮への被害は彼女にとって許し難いことだったんだな、と改めて思った。


 けれど、これは悪手だ。

 

 こんな状況であっても、いや、こんな状況だからこそ彼女にとって嫌なことをする流れは決して止まらなくなってしまった。


「ふむ。まぁ、儂はかまわんぞ」


「私もです。準備は十分にできてます」

 

 おれに視線をむけてくるのはずるいと思った。

 いや、そう思う方がずるいのかもしれない。すべきことをやる。それは誰かに自分の決断をさせるということじゃない。すべきことを自分の意思でやるという意味なのだ。

 だから、フレイヤの言葉は正しい。

 これまでこの迷宮に、彼女にした仕打ちはおれが悔い改めるべきことなのである。まぁ、結局改めることはできないんだが。


「長老、やってくれ」


 おれの言葉と同時に、長老は結界を解いた。

 何もない空間から無数の死体が溢れ出す。

 ぐちゃぐちゃに焼け爛れた骸を見て、フレイヤは完全に硬直した。けれど、すぐに悲鳴を押し殺した息を吐いた。

 彼女も気づいたのだ。


 動いている。


 かつて軍勢として攻め込んできた兵達は全身を焼かれ、肉体の至る所を欠損しようともまだ進軍を止めていないのである。

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