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ある兵士の話 三


「…ぁ?」

 

 意識が飛んだ、と思った。

 あるいは、本当の死が彼を飲み込んだかと錯覚した。

 けれど、違った。まだ命の残り滓があったらしい。それどころか、星が降ってきたのに命を削られた感覚も、痛みもなかった。

 何が起きたのか。

 その意味は、


「あ、ああ、ああああ…!」

 

 その手に握られていた。

 

 一本の剣。

 

 握りしめてしっくりと来るそれは、随分前に失ったはずのものだった。

 生まれ故郷。

 その村で初めて手にした武器。軍に入ることを決め、その日のうちに渡されたものだ。

 なんの変哲もない鉄の剣だった。

 それを死ぬほど振った。戦場で役に立たないと知った時はどれだけ憤ったことだったろう。才能がない彼には長物を振るうか集団で戦わなければ生き残れないことを悟った時にはナイフへと変えた。

 そうだ、それからこの剣を見なくなった。

 捨てたのかもしれないし、どこかに仕舞ったのかもしれないし、質屋にでも売ったんだろうか。

 それでも、一度握れば思い出すことが出来た。


 そうだ、そうだったんだ。

 はじめてそれを握った時に決めたんだった。

 

 村を守ること。

 悪を倒すこと。

 

 何も知らなかった彼がかつて誓ったことを、今思い出した。

 

 彼にとっての悪は圧倒的な力を持ったもの。

 圧倒的な力を持つからなんだって出来るし、だから、彼の村は蹂躙された。

 蔑む親も、嘲笑う弟妹も、無関心な兄も。

 何もかもが平凡でつまらない村の民も。

 

 全てが犯され、嬲られ、蹂躙された。

 

 だから、彼は剣をとったのだ。

 そうだ、だから彼はあの日と同じことをあいつらにも。


「ぉぉおおおおおおおおおっ!」


 力が戻ってきた。

 あの日の思いが蘇る。

 圧倒的な暴力、圧倒的な恐怖、圧倒的な絶望。

 その全てを乗り越えるために、彼は剣をとったのだ。

 

「少しはマシになったか。相変わらず、トールは良い仕事をするのう」


 一歩、前へ。

 そこで彼は気づいた。

 周囲の誰もが自分と同じだと言うことに。

 

 各々が武具を握り、誰もが強大な敵へと向かっていることに。

 ああ、そうだ。

 少なくともあの日、共に戦った彼らは皆が皆あの強大な敵を討ち滅ぼさんと必死だった。どれだけの血が流れただろう。どれだけの骸が積み上がったんだろう。

 それを彼は、彼は生き残ったはずなのに。

 

 どうして、こんなことになったんだろう。本当はもっと真っ当に、


「さて、諸君。ようやくまともに戦う気になったようじゃが、まだ向かってくる気概はあるかい? なに、見ての通りの老耄じゃ。一撃でも入れられれば、貴様らの勝ちじゃ。至極単純じゃ。さぁ、とっとかかってこんかいっ!」

 

  

 死にたかったんだ。

 

 星が瞬いた。

 視界を埋め尽くさんばかりの光を前に、彼は、彼らは躊躇うことなく走り出した。

 

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