ある兵士の話 二
痛い。
痛い痛い痛いイたいイタいイタイ痛いいたいいた痛い痛いいいいい。
星に焼かれ、潰され、奪われていく。
彼がこれまで経験したどの死よりも痛くて、苦しくて、そして、絶望的だった。
命が削られていく感覚はうすらぼけた思考を正気に戻すには十分な恐怖だった。
彼が犯した所業、彼が犯した虐殺、彼が犯した蹂躙。
その全てを思い出し悔いようとも、襲いくる死の爆撃は決して弛まない。
むしろ激しさを増すばかりで懺悔の言葉すら浮かばなくなった。
どうして。
どうして、こんなことになったんだ。
「貴様らいったいどれだけの命を啜ってきた。弱さに甘んじて美味い汁を啜り続けてきたか。気が変わった、貴様らは塵芥になるまで消し飛ばす。腐れ外道が」
どうして。
どうして、こんなことになったんだ。
顔面を焼かれた、腕が潰れた、足が奪われた。
その全てが彼の命を無惨にも削り取っていく。抵抗することも、諦めることも、受け入れることも到底できない。
命を、命を削られることがここまで脅威だとはまるで理解していなかったんだ。
だから、犯し、嬲り、蹂躙したのだ。
はじめはそうじゃなかった。
飯が食えるし、誰からも後ろ指をさされることがなかったから軍に入ったのだ。それが戦争になって、侵略に変わってからだ。
それまでに流れた血のせいにするのは簡単だろう。
けれど、少なくとも彼自身はそれだけが理由で残忍となったわけではなかった。
ただ、ただ気分が良かったのだ。
それまで一度も恐れられたことのなかった自分が恐れられた事実に。親には次男だからと蔑ろにされ、弟妹には要領が悪いと嘲られた。兄は無関心で、誰も彼を見てくれる者はいなかった。
だから、気分が良かった。
だから、転げ落ちるまでは簡単だった。
周囲も変わった。
それを理由にさらに転がり落ちた。
そんな風に過ごしていたから、結局は地獄に落ちた。
いや、落ちることは出来なかった。落ちることすら許されなかったのだ。
「ぁ、ああああ…」
思い出す。
鬼畜の所業の連続だった。
犯し、嬲り、蹂躙する。それが最低な行為だと思っていた。
けれど、それは最悪の行為ではなかったのだ。
彼は死んでいる。
一度死ねば生き返ることはない。
彼が今意識を持っているのは死にながら命を削っているから。
その命は彼のものではない。
赤の他人の命、その残り滓だ。
残り滓で何度も死を乗り越えられるほどの命をすすった結果である。
「む。…目を覚ましたか。だが、もう遅い。呪うなら自身の弱さを呪え。それだけの所業を犯してきたのだからな」
星が、また。
夜空の星がたくさんあるのは知っている。けれど、ここまでたくさんあるはずはない。何度も、何度も、何度も、降ってきたのに、どうして尽きることがないんだろう。
彼の意識は、そこで潰えた。
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