悪徳
「相変わらず楽しそうですね、長老」
「また新しい術を思いついたとか言ってたからな。試したくて仕方ないんだろ」
「これですか。えげつないですね」
空からまるで星が降っているようだ。
奔流する魔力の波が画面越しにも見て取れる。戦場とは空間そのものを断絶しているはずだが、それでも余波がこちらの世界にまで届いている。
迷宮のような空間を生み出す術の応用、らしい。
この十年の間に、長老は村の重積から解放された反動からか魔法に没頭するようになった。いわゆる老後の楽しみ、あるいはセカンドライフってやつだろうか。
元々戦う術としてより学んだというよりも魔法そのものが好きだったらしい。それが没頭することでさらに開花した、とは本人の談だ。
外界と遮断された空間を生み出し、あまつさえそこで数百単位の生物を閉じ込める。この世界基準でも理解できない類の術だ。フレイヤが迷宮を生み出すことができるのは、そういうことが出来る種族だから。
彼女自身、どうしてそうなるのか理解できていない。そこを長老はある程度解明したのである。
「こうして見ていると神様になった気分になりますね」
「地獄絵図だけどな」
悪趣味にもほどがある。
空間に浮かぶ映像は長老が生み出した空間内部を映している。画面と言ったが、どちらかというとホログラムに近いのかもしれない。
画面の中で星のような魔力の塊が降るたびに余波がこちらの世界を震わせる。その度に肉片が飛び散り、ドス黒い血飛沫が噴き上がるのだ。
ただ、異常はそれだけじゃない。
吹き飛んだはずの肉片や血飛沫が巻戻るように元に戻る様子も克明に映っている。
「肉体に刻まれた紋章の力ですね。術者と遮断されても作動しているようです」
「ひでえな。まるでゾンビだ」
「もっとひどいですね。あれ、意識も残ってるはずですよ。多分ショックで精神が麻痺しているだけです。思考力もいくらか奪うことで命令に従う兵を作り出しているんです」
「言うなよ、そういうこと」
画面の中に浮かぶ死体の表情にまで意識が向いてしまった。
…だめだ、明らかに生きている人間に近い感情が見て取れる。死の恐怖に怯えるような表情、全てを悟ったような表情、全てを諦めた表情。
全ての感情が生々しすぎて見ていられない。
長老は未だに喜色満面に魔法を行使しているが、そろそろいい頃合いだろうなと思った。
だから、おれもすべきことをすることにした。
「…本当にやるんですか?」
「いつものことだろ」
「ですが、私としてはその行為自体が最も悪趣味に思えます」
ひどい言われようだ。
けれど、こうしなければおれたちに旨みはないし、彼らだっていつまで経っても解放されないじゃないか。
だから、ためらう必要はなかった。
「いいんだよ。長老は喜ぶし、うまくいけばこいつらだって解放される。そんでおれは儲けが取れるんだ。そもそも、長老は了承済みだし。こいつらは襲撃者ってことで割は食ってもらわないとな」
おれは画面の向こう側へと意識を向け、スキルを発動した。
「思う存分争ってくれ」
長老と軍勢。
そのどちらにも貸付を行ったのだ。
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