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ある兵士の話


 それは彼らにとってなんの変哲もない日常だった。

 

 宵闇に紛れ、一歩一歩前に進む。先陣を切るのは彼らの指揮官だ。名前は知らない。知る必要もないし、知ってもすぐに代わるから意味がないのだ。


 彼が村を出てからどれだけの時間が経っただろう。

 初めて槍と兜をもらった日から、彼はずっと戦をしたことしか覚えていない。

 何度も槍で刺殺したし、何度も踏み潰して殺したし、何度も殴り殺した。

 獲物はいつだって彼の知らない誰かだったから気に留めることもなかった。というか、そんなことに気をとられれば自分がやられることを彼は経験で思い知らされたのだ。

 刺すのを躊躇えば斬り殺され、踏み潰すのを躊躇えば刺し殺され、殴り殺すのを躊躇えばこちらが殴り殺された。

 幾度もの失敗は彼を兵として一人前にした。

 だから、彼は思考を放棄し一兵士として戦場を駆け回り続けている。

 だから、彼は思考を放棄して自身に何が起きているのかもわからなかった。

 それどころか、周囲にいる知らない誰かに何が起きているのかも気に求めていなかった。

 

 それこそが、大魔王の軍勢。

 

 彼らは自身を顧みず、他者も顧みない。ただ戦乱だけを撒き散らす混沌の集団である。

 今宵、彼らに下った指令はただ一つ。田畑を踏み散らし、そこにいる住民を鏖殺すること。普段となんら変わらない行動だった。

 むしろ楽と言っていい。

 敵対する兵はなし。しかも、事前に直接叩き込まれた情報によれば村民ですら十に満たない数しかいないのだ。

 おそらくは指揮官以下数名で済む指令だ。彼に出番はないだろう。

 軍勢の移動に合わせたついでの任務。一度も言葉を交わしたことはないが周囲の誰もがそう理解したことだろう。

 だから、誰もが戦意を失っている。彼自身もうすらぼんやりとした思考のまま、ただ一歩一歩前に進んでいた。

 

 だから、気づかなかった。

 周囲の地形が頭に叩き込まれたそれとまるで違っていることに。


「これは、また。珍妙な連中とは聞いていたが、ここまで憐れだとは思わんだ」


 空から声が降ってきた。

 うすらぼんやりとした思考から戦闘のそれへと瞬時に切り替わる。穂先を空に向け、声の主を視界へとおさめる。

 そこに、鬼がいた。

 

「主ら、どこまで意識は残っておる? そんな形になってまで戦をしたいのか? …もはや、言葉すら忘れたか」

 

 魔力。

 宙に浮かんでいるのは明らかに魔法によるもの。完全に制止しているのは初めて見たが対処法は理解している。

 彼がそれを起動すると同時に、周囲も同じ行動をとった。

 

「ほぉ。なるほど、数が揃えばなんとやらか」


 彼らの肉体にはいくつかの機能が刻まれている。風を荒狂わせ、火を生み、地を揺らす。

 上空に浮かぶ獲物がいれば風を荒れ狂わせ叩き落とせばいい。彼だけでは微風に等しくとも、周囲には彼と同じ機能を持った者達がいる。

 荒れ狂う風が轟々と音を立て、宙に浮かぶ鬼を襲っている。

 彼自身も吹き飛ばされそうな強風だったがそれこそ問題ない。

 獲物を引きずり落とせれば誰かがそれを仕留めることができる。彼が吹き飛ばされ、叩き落とされようとも些細な問題だった。


 だって、彼は、彼らは。


「死してなお戦を続ける気概はよし」


 そう死んでいるのだから。

 荒れ狂う強風の中でも、宙に浮かぶ鬼は微動だにしない。ならば次の手だ。炎を風に乗せ、全てを焼き払う。彼も彼らも焼き払われようとも復活する。

 それはもう幾度も経験しているから問題はなかった。

 彼らは火を放とうとして、


「だが、それだけでは足りん。出直してこい」


 空から、星が降ってきた。

 

 

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