訃報
「またそれですか。どうしてそうチートに頼るのか私には理解できません」
心底呆れたと言った表情で伊藤咲奈はため息を吐いた。
チートだなんだと文句を言われても価値あるものは活用するのが当たり前だろう。しかも、数人の村民しかいない弱小村なのだ。未来予知くらいの反則技がなければ生き残ることなんて出来やしない。
「使えるもんはなんでも使うんでな。こいつのおかげでイナゴもなんとかなっただろ?」
「ええ、信じますよ。この十年はそれのおかげで私も随分と助かりました。私には決して読めないのが残念で仕方ありません」
「迷宮を攻略すればいいだけだろ」
「そんなことできるのはあなた達だけですよ」
伊藤咲奈は迷宮を攻略していない。
出来ない、と本人は言っている。
明らかにおれより強いはずだが、真っ当な手段ではあの迷宮を攻略するのは不可能らしい。それこそ親父みたいな理不尽な強さがなければ無理なのだろう。おれが攻略できたのも反則技を持っていたからだ。
まぁ、その反則技を今は使うことが出来ないんだが。
「なら、今回の出来事も書かれているんですね? ほんと、毎回嫌になります。せっかく特ダネを持ってきたと思っても書かれてるで済まされるんですから」
「いや、特ダネだよ」
「え?」
ぽかんとした表情を浮かべる伊藤咲奈。
おいおい、とため息を吐きたくなった。ようはお前が望んでいた結果だって言ってるんだけどな。
「大魔王が攻め込んでくるなんて一切書かれてなかった。書かれてたのは大魔王ってやつが散々暴れ回ったってことだけだ」
「…と、いうことは?」
「この村に攻め込んでくるなんてことも書かれてなかった。もちろん、親父の死もな」
だから、特ダネだよと伊藤咲奈に改めて伝えた。
「おぉ?」
「喜んでんじゃねえ」
「しかし、厄介じゃのう」
長老が仕切り直すように言った。実際こんな無駄話をしている時間がないのは間違いない。繰り返しになるが、この村は村民が数名しかいない弱小村だ。下手をすれば野党だったり魔獣に襲われただけで壊滅するかもしれない場所なのだ。
まぁ、近くに迷宮があるし、その上、迷宮の主人であるフレイヤが味方に着いてはいるのだが。
「軍勢となるとわしが動くしかないか。皆では暴れすぎるからな、田畑を無駄にするわけにはいくまい」
「流石に無茶でしょ。腐っても軍だ。しかも相手の戦力もわかってないし」
「それについては問題ありません。これを」
伊藤咲奈はそう言って何かを取り出した。
書類か何かかと思ったが、持っていたのは布だった。
布である。どう見てもただの布だ。ただ、真ん中に変な模様が書かれている。
「なるほど。紋術か、古風な連中じゃ」
「紋術?」
「特殊な墨を使って紋様を描くことで魔法を使用する連中です。古風というよりも原始的と言った方がいいですね。シンプルな魔法しか使えませんが、その分強力ですよ」
「問題ない。ワシと相性が良さそうじゃ」
乗り気の長老に違和感を覚えた。
いつもなら面倒くさそうにしているのに明らかにワクワクしている。とにかく、来るべき時にむけて備えるしかないのだ。
「それで、いつ頃来るんだ?」
「明後日には着きますね」
「お前ぶっ殺すぞ?」
何が特ダネだ。
いくらなんでも近すぎる。二日で戦争が出来るわけもなし、どうやら絶対絶命の状況は変わらないらしい。
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