訃報
「ちょっと、えっと、待った。何を言ってんだ?」
情報量が多すぎる。
伊藤咲奈の報告にツッコミどころが多すぎてそんな感想しか浮かばなかった。親父が死んだ。大魔王の軍勢。しかも攻めてくる。
どれもこれも主張が強すぎて整理するのが難しい。いや、何言ってんだ、ほんとに?
「混乱するのも無理はありません。けれど、今、優先すべきは攻め込んでくる大魔王の軍勢に対抗することです。さあ、この村の田んぼを守るために鍬を持つのです。ノーミンこそが最終防衛秘密兵器であることを奴らに思い知らせる時です」
「ふざけてんならやめてください」
頭が痛くなってきた。
本気なのか冗談なのかわからない。普段からこんなノリで嘘をつくからややこしいのだ。怒鳴り散らしても意味がないことを経験で知っていたし、飄々とした態度のままだから真偽の判別すらつかない。
長老もおれと同じ気持ちなようで、
「真面目にやらんか」
と呆れた様子で嗜めている。
「私は至って真面目です。むしろ、大和の誰よりも早く伝えにきた事実を褒め称えるのが筋だと思いますが?」
いや、知らねーよ。
そう言って追い出してやりたかったが、ここ十年の付き合いで彼女がおれ達の味方として動いてきたのは間違いない。
蝗害、水害、侵攻、襲撃。
思えば碌でもないことばかりだったが、それも多くの縁や助けによって乗り越えてきたのだ。危機の前には伊藤咲奈が必ず知らせてくれていた。…うん、見方を変えれば彼女がきっかけで大変な事態が起きているとも言える。
おれが疫病神と言ったのは、決して偏見ではないのである。
「それはすまなんだ。それで、アグニルはどう死んだのだ? 誰に殺された? 遺体はどうした? 件の大魔王が攻めてくるのはそのせいか?」
「戦死です。誰に殺されたのかは不明。遺体も不明。最後に関しては若干惜しいですね」
戦死。
それだけはしっくりきた。親父が死ぬならそれ以外あり得ない。
ただ、またツッコミどころが増えた。
「遺体もないのに戦死したってなんでわかんだよ」
「目撃者がいます。彼女の証言は信ぴょう性が高いと判断しました」
「目撃者とは誰じゃ?」
「アスラさんです」
「…おいおい」
ここであいつが絡むのか。
一瞬言葉を失ったが、おれはまだ自分が冷静だと自覚していた。
そもそもの話。
そもそもの前提の話として間違っているとおれは確信していたからだ。
「残念だけど、それでも信用できない。もし本当にあいつが見たって言ってんなら、ただ見間違えただけだ」
「…随分と否定的ですね。どうしてそこまで確信をもって言えるんですか?」
「書いてるからさ」
「予言書に、親父は大魔王と絶対に戦えないってさ」
迷宮の奥。
未来の出来事まで書かかれた本が貯蔵された書庫。
その一冊に書かれていたのだ。
アグニルは大魔王とは絶対に戦えない。
名指しの文章を見つけた時、親父は怒りのあまり本を引き裂いたのだった。次の瞬間には元に戻っていたが。
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