大魔王
「ほう、随分と保ったもんじゃ。トール、おまえさんも頑張ったな」
田んぼの様子を長老に報告したら、そんな労いの言葉をかけられた。
長老が動じていないのは事前にこうなることを聞いていたからだ。フレイヤの言ったとおり、既に伊藤咲奈が予見していた事態なのだから。
「頑張ったって米が採れなきゃ意味がないでしょう」
「備蓄米は十分にある。土地を休め、身を休め、じっくりと腰を据えるのも大事じゃ」
「腰を据える、ですか?」
「フレイヤを娶り、子を成せ」
またそれか。
余計なお世話だと突っぱねたかったがそうもいかない。長老には様々な面で世話になっていたし、フレイヤとの同棲生活でも散々迷惑をかけてきたのだ。
おれが精神的にジジイだとしても、世間知らずのお嬢様との生活が平穏無事に送ることができたのは長老のおかげと言っても過言じゃないのだから。
ある意味、保護者として真っ当な意見とも言えるのかもしれない。
「何回も言ってるでしょう。おれは」
「アスラのことを考えておるならなおのことじゃ。十年と言う年月は長いぞ」
痛烈な一撃を喰らった。
最近の流行りなんだろうかと愚痴りたくなったが、周囲の人間からすると言いたくもなるのかもしれない。そりゃ、逆の立場だったら一言でも二言でも言いたくなるだろうなとも思った。
「いつまでも昔の関係に引きずられるでない。トール。この十年でお前さんは随分と変わった。アスラも同じはずじゃ。あの娘にはあの娘なりの関係や生活を築いておる」
「そんなことはわかってますよ」
そう、わかってる。
だから、こう言う風にチクチク言われるのが嫌なのだ。なんで仕事がうまくいかないことを報告しに来ただけなのに一生の決断みたいなこと迫られなきゃならんのだ。
言うべきことはいったのでとっと退散するのが吉だろう。
本当はもう少し話したいこともあったし、頼みたいこともあったがそれ以上に不快な気分になるのは嫌だったので家に帰ることにする。
「とにかく、その件はなんとかしますから。あまりうるさく言わないでください」
「先のばしは悪手だと思うがのう」
「しつこいですよ」
いい加減怒鳴り散らしそうになったので、今度こそ長老を意識から離した。
と。
「あ、ここにいましたか」
また会いたくない奴と顔を合わせてしまった。
伊藤咲奈。
大和の定期船に乗ってきたであろうトラブルメーカーは薄ら寒い笑みを浮かべて、「お久しぶりですね」と言った。
いや、先週あったばかりだろ。
そう突っ込むのも面倒で、おれは嫌だったが用件を聞くことにした。
「何しにきやがった、疫病神」
「ひどーい。最近、私に遠慮なさすぎじゃないですか?」
伊藤咲奈はちょっとだけ眉根を寄せて怒ったふりをした。そんなことを気にするタマか、と言いたくなったが会話を続けると藪蛇になると警戒し、睨みつけてやった。
ほら、満面の笑みを浮かべやがった。
「用件はなんじゃ」
そんなおれたちのやりとりに呆れたのか、長老は先を促した。
伊藤咲奈は、
「訃報です、アグニルさんが死にました。近々、この村に大魔王の軍勢が押し寄せます」
そんなツッコミどころ満載なことを言った。
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