結婚とはなんだろう
結婚式。
人生で誰もが一度は考えるイベントだ。前世では当然のことながら、この世界でも常識の一つである。相手がいる場合には将来設計の一環として、いない場合はもっと甘酸っぱい希望に満ち溢れていることだろう。
翻って、婚約者であるフレイヤから切り出されたおれにとってはどうだろう。
既に答えは出ているのだ。
「それは駄目だ。ケジメってもんがあるからな」
「ケジメね。気にしているのはあなただけだと思うけれど? もう十年よ。私だってこの世界のことは学んだし、あなただって、もう子供じゃないでしょう?」
フレイヤの言いたいことはわかる。
十年と言う月日は長い。
子供そのものだった見てくれは十分に青年と言える身体になった。中身に至っては、アラフィフに到達しているのだ。婚約者として彼女を受け入れることを選んだ時点で結婚を意識するのは当然の話なのだ。
問題は二つ。
一つは予言の書。
そこに、この十年で追加された出来事があるのだ。もちろん、これから起こる未来での出来事である。
「子供じゃないからこそケジメは大事なんだろ。そもそも、おれたちが婚約するきっかけになったのだって予言の書だ。そこに、ケジメはつけろって書かれてんだからそうしなきゃだろ」
「ふぅん。あれ、本当は誰かが書き足したんじゃない? 初めに読んだ時には私とあなたがただ結ばれるって書かれてたのよ?」
「誰かが書き足せるもんじゃないし、内容が変わったのは事実なんだ。せめて、そこの問題だけは解決しないとな」
「納得いかない」
むすっとした表情のままフレイヤは食卓に料理を並べている。
ここ数年で彼女は家事のほとんどを身につけていた。元々、迷宮でもそれなりにやっていたとのことだったがそれは迷宮の力を借りてのことだったのだ。迷宮主の立場をいいことに思い通りにやっていたにすぎない。地上に来てからの彼女のトンチンカンっぷりには手を焼いたもんだ。
湯気を放つ味噌汁や香草を巻いて焼かれた獣肉が食欲をそそる。
なによりも、米だ。
炊き立ての米が放つ匂いに思わずいただきますの挨拶をする前に箸を握りそうになった。フレイヤは真正面に腰掛け、不満げな表情を隠すことなく半目で睨んできた。
「じゃ、私はいつまで待てばいいの?」
「それは、だから、ケジメを」
「アスラさんが会ってくれないのに、どうやってケジメをつける気?」
そうなのだ。
アスラ。
おれにとって最初で最後の相棒である。
十年前、フレイヤを婚約者とすることを決めてから彼女と会うことができていないのだ。というか、連絡の一つすら取れないでいる。
この村に残ったおれがいくら手紙を送ろうと返事はこないし、大和の連中を通じて話をしようにもこの件には一切協力してくれなかった。
もう大分年月も経っているんだから、少しぐらい多めにくれたっていいのに。
「とにかく、あいつとはケジメをつけたいんだよ」
「それこそ、アスラさんにとって面倒なんじゃない? だって、彼女、今忙しいんでしょ?」
「勇者として大魔王と決戦中らしいじゃない」
そう、勇者。
大魔王になると言われたアスラがなぜか勇者になったのだ。
ほんと、年月ってのはその人物だけではなく社会的な立場さえも一変させるのだった。
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