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それからのこと 十二

 あまりにお約束と言えばお約束。

 思い返せば、親父との会話の内容的にも想像しやすい話ではあった。

 

 そもそも、迷宮攻略者へのご褒美というものがある時点でおかしいと言えばおかしいのだ。隠された財宝ならご褒美とは言わない。迷宮の主からの贈り物という時点でどこか作為的であり、普通でない物事の裏にはなにかがあるということだ。


「私のパパとママは迷宮攻略者に出してもらったの」


「なら、親父が解放したってことか?」


「…多分、違うと思う。二人が出ていったのは最近だし、攻略者は女の人だった」


 つまり、攻略者には迷宮の主人を外へ出す権利があるってことだろうか。権利があくまで権利でしかないなら親父がフレイヤの父母を解放する権利を行使しなかっただけという説明もつく。

 

「つまり、外に出たいってことか」


「うん。生まれた時からあそこしか知らないから」


 思わず唸ってしまう。

 実に純粋で否定し難い願望である。確かにあの暗い迷宮の中にいては外へ出たくなる気持ちも十分にわかる。いや、それこそもっと純粋な思いなんだろう。


 見たこともない場所へ行きたい。


 それは、どんな人間にもある当たり前の欲求なのだ。


「それで婚約ってのも夢がないと思うけど」


「欲しいって言ったくせに」


 拗ねた顔が可愛い。

 やばい、なんだか無性に可愛く思えてきた。と言っても、小さい子が駄々を捏ねている姿を見るのと同じ感覚だが。

 前世で従兄弟の娘と遊んでいた時のことを思い出す。あの時も珍しい親戚のおっさんが来てテンション爆上げだったガキどもがこれまた元気いっぱいで可愛かったのだ。もちろん小遣い目当てなのはわかりきっているがそれでいいと思えるあの感覚。

 なんだか、なにもかもがどうでもよくなった気がする。

 どうしたもんかと身構えていた自分自身がバカだったのだ。


「確かに言った。でも、おれは見た通り子供だ。だから、そういう関係になるには何年も掛かるってのはわかるだろ?」


「魂はおじさんなのに?」


「尚更だろ」


 今更ながら、フレイヤは十代の見た目をしている。

 …いや、白人に近い見た目だから正直年齢に関してはよくわからない。けれど若い見た目をしているのだけはわかる。当然絶世の美少女である。…いや、だからどうだというわけじゃないんだが。一度意識し出すと別なところまで気になってしまう。


「私は、待てるよ。ううん、あなたを待ちたいの」


「わかった」


「あの迷宮で他の誰かが攻略するのを待つなんてもう無理。外の世界を知ったし、こんなにすぐに来てくれるなんて思ってなかった。だから、私は…えっ?」


「だから、わかったって」



「今からおれとフレイヤは婚約者だ。覚悟してくれよ、農家ってのは総力戦だからな」

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