それからのこと 急
結局、親父と母の諍いは一瞬で終わった。
正確には終わらせたと言った方がいいのかもしれない。いや、家が消し飛んでいる時点で終わらせたもクソもないか。
母の癇癪に対して親父がとった行動は単純だ。
ただ抱きしめた。
それだけで荒れ狂う魔力は鎮まり、二人の間で独特な空気が流れたのだった。…まぁ、ようはここからは家族ではなく夫婦の時間ということだろう。母親としては納得できないが妻としてなら納得してやるという阿吽の呼吸みたいなもんだろうか。
…そういや、前世で父さんと母さんが夫婦喧嘩した時も似たようなことがあった気がする。俺自身は結婚もしなかったし、夫婦の空気感というのとは無縁だったのでよくわからないが。
とにかく、おれは空気を読んでその場を離れた。
向かうのは集落。長の家である。
✳︎
「懐かしいのぅ。子供ができてからはとんとなかったが、あやつらの喧嘩は派手だからなぁ」
長老はおれが事情を話す前に迎え入れてくれた。
そりゃそうだ。あれだけの魔力の炸裂すれば何かが起きたことは周囲にダダ漏れである。この集落にいる者たちは母の魔力を当然理解しているし、起きた場所を見れば一目瞭然だ。
「すいません。どうにも、親父がわがままで」
「かまわんよ。昔はシーナのやつがアグニルを困らせておったんだがな。本当に世の中というのはわからんもんじゃ」
愉快そうな長老に様子に安堵する。こんな状況でまさか身内喧嘩で迷惑をかけることになるとは思わなかった。ただでさえ自分の面倒を見るの精一杯なはずである。いくら長老という立場であっても邪険にされておかしくないのに、屋敷に迎え入れてくれて感謝しかなった。
「こら。何ぼーっとしてんのよ」
「愚弟、手伝え」
台所から裏切り者二人の声が聞こえた。
愛する弟を見捨てた裏切り者の言葉など聞く必要はない。おれは無視して長老との会話に集中した。
「それで、これからどうするんじゃ?」
「え? いや、知ってるでしょ。迷宮潜って、米作って、村を守って」
「それはアグニルが言ったことじゃろう。お主はどうしたいんじゃ?」
「――」
当たり前と言えば当たり前のことだ。
おれの意思はどこにあるか。
前世ですら聞かれたことのない本当に当たり前のことだった。親父から言われたことを当然のように受け入れていた自分。それを初めて明確に自覚した。
いや、ほんと、なんでここまで疑問なく受け入れてたのか自分でも不思議だ。確かに圧はすごかったが、だからと言って全て素直に聞く道理はないのだ。
いくら世界最強でも。
俺自身のことをコントロール出来るのは俺だけだ。
「そうだ。うん、そうだったな。うん、自分のことは自分で決めないと」
「そうじゃ。どれだけ偉大な父がいようとも、自分の道は自分しか歩けないでの」
長老の言葉が染みる。
おれはそれを噛み締め、思考し、
「おれ、親父の言う通りにします」
心の底から、そうすることを望んだのだった。
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