これからのこと 三
「こいつ、あたしの母さんよりも年上だぞ」
「こらこら、女性の年齢を誰かに言うんじゃない。そういうのは他所の村では嫌われるぞ」
「他所の男に手を出そうとする奴の方が嫌われるだろ」
「別に手を出そうとしてるわけじゃないって。長老も言ってたじゃないか、村を出るんだからお互いの繋がりを大事にしなさいってさ。ああ、そうそうトール。手紙を使って連絡とるのはいいけど大事なことは書かないでね? 符牒も禁止。大和の連中はそういうのに長けてる奴が滅法多いから。手紙に込めた情報はどんなに隠しても見抜かれる」
情報量が多すぎる。
何かを反論しようにも理屈がわかるので何も反論のしようがない。それよりも自分が幼少期を純粋にやり直しているつもりだったのに、そうではなかったと言う事実の方が衝撃が大きすぎた。
いや、ほんと、おれって何も見えてなかったんだなと痛感してしまった。
「だから、誼をつなぐ必要があるのさ。同じ釜の飯を食ったもん同士って奴? あいつらだって私らに情報を全部開示するはずもないんだ。あたしらはあたしらで繋がんなきゃ生き残れない。アスラ、あんただってそのくらいはわかるだろ」
「ん、まぁ、そう…かな」
これはわかってない顔だな。
おれだけじゃなく彼女も同じように思ったはずである。けれど、そこを指摘すればそれこそアスラが暴れ出しかねない。それがわかっているからおれと彼女はそれ以上追求しなかった。
七年の歳月。それにどれだけ裏があろうとも決して無駄ではなかった。
この阿吽の雰囲気が騙されたとかそういう安っぽい感傷のショックを薄めてくれた。そうだった。そもそも赤ちゃんで流暢にしゃべれる謎の赤ん坊をすんなり受け入れる方がどうかしてる。
むしろ、ここまで気づかせなかった村のみんなの方に感謝すべきなのかもしれない。少なくとも、理不尽な扱いは一度もなかった。誰もが村の子供として扱ってくれたのだから。
「とにかく、これから信用すべきなのはこの村出身の絆ってことさ。大和の連中は気持ちのいい奴が多い。けれど、集団としてそこに染まるのはダメだ。私達はこの村の出身であり、この村の民だ。滅ぼされかけた側でもある。それを忘れるなってことさ」
「…そりゃそうだよな」
なんやかんやあって仲良くなりました。
前世では誰もが望むものとして取り上げていた話だ。
実に虫のいい話だ。
当時からどこか違和感がったが、自分がその立場になって初めてわかる。
決して忘れてはならない。というか、忘れられるはずがないのだ。
それは時が経つほどに重くのしかかり、こうして復興へ向かおうとしている時ですら煮え立つものを感じる。
瓦礫の山と布を被せただけの遺体。
誰かを見ようとは思わない。見れるはずがない。
それを見て、もし、知り合いの誰かだったら。もし、親しくしている誰かだったら。
大和へ刃を向けるのは当然のことだ。けれど、それでは先がない。
刃を磨きながら自分たちの立場を主張し、確立する。それが、おれ達がやるべきことなのだ。
「というわけで、夜…いや、今からでもいいか。ちょいと人目のつかない場所にしけ込もうじゃないか」
「しけこむ?」
「そりゃ、あんた。いくら私でもアスラの前で仲良くなる気はないさ。なに、私はこれでも経験豊富さ、しっぽりと楽しもうじゃないか」
およそ聞きたくもない下ネタというか下品すぎる言葉だった。
アスラが明確な殺意と魔力を迸らせたのを感じると同時に、おれはこの場から全力で逃げ出した。
うん、やっぱり何も知らない方がよかったのかもしれない。
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