大和とは 五
「にゃははははははははははー」
咆哮は高らかに。
なのに、不思議と気が抜ける響きが木霊する。母艦の内部にいるはずなのに、どうしてここまで声が届くのか。
米粒みたいに小さな影が瞬く間に接近し、巨大な黒猫と判別できた時には肉球が視界をふさいだ。
衝撃。
叫ぶ暇もない。何が起きたのかわからず、震動に堪えるしかなかった。
「な、何事でおじゃるかっ?」
おじゃるが出た。
その事実だけでこの状況を深刻に感じ取っていることがわかる。
逆に、おれとしてはこの状況ではじめて冷静さを取り戻すことができた気がする。
バスにゃんだ。
彼女が、おれたちの危機に駆けつけてくれた。
「ね、猫っ? なんで、猫? てか、でっか! なんで空まで飛んで天照をぶん殴ってんの? え、てか、揺れるとかやばくね? 結界は? え、結界ごと殴られてるっ? あれ、なんで消えないのっ?」
「バステト…」
どうやら長老も彼女と面識があるらしい。
親父の知り合いなんだから当然かと思考を切り上げ、狼狽する麻呂二を無視して長老へと詰め寄った。
「逃げましょう」
「何じゃとっ?」
「彼女が襲いかかった時点で交渉は終わりですよ。それに、他国からの侵略も彼女がいる時点でどうにでもなります」
「………食料や物資はどうする?」
「降ろされたものを全部使いましょう。もともと無償の提供なんですから恨まれる筋合いはありません」
我ながら小悪党染みた発言である。けれど、現実問題として半壊した集落に物資は不可欠だ。作物も荒らされ、穀物庫も破壊されているのをついさっき上空から見たのだ。多少の物資は残っていようとも、これから村を復興するには必要である。
麻呂二の言葉は正しいし、行いはおれたちにとって感謝すべきことなのは間違いない。けれど、それを大和が行ったと言う時点で間違っているのだ。
そういう根本的な事実を無視するやり方は正直気に食わない。だからこそ、バスにゃんの乱入はおれたちにとって最も重要な奇貨へと変わったのだ。
二度目の衝撃が船体を襲った。
「げ、迎撃ぃ! なにしとる天照! そんなクソ猫黒焦げにしてしまえっ!」
開口一番。
震動が収まったと同時に麻呂ニが叫んだ。動揺や困惑よりも怒りが勝ったらしい。それも当然か。いきなりの暴力に怯えるだけでは殺されるのだ。けれど、そう言う時が一番危ないってことをわかってるんだろうか。
いくら船内とはいえ、ここにいるのは鬼が二体なのだ。
「動くな」
長老が瞬時に魔力を迸らせ、麻呂ニを拘束した。
驚愕に言葉すら出ないと言った表情でおれを見ている麻呂二。いや、そんな顔されてもこのチャンスを逃すわけがないだろう。
「このままワシらを降ろせ。そうすればこれも終わる」
「ば、あれは神獣じゃぞっ? なぜ、貴殿らと交流がっ!」
「おれの師匠です」
「しっ? え、師匠?」
わけがわからないと言った様子で百面相を晒す麻呂ニ。
おれと長老が真顔のままでいたら何やら思案の末に結論に至った表情を見せた。いや、我ながらわけのわからないことを言っている。けど間近で見てるとそうとわかるのだから不思議だ。同じ日本人だからだろうか。
「わかった、降ろす。だから、暴れるなでおじゃ! 下手に暴れられたら、それこそ取り返しがつかん!」
そう言って、麻呂ニは素直におれたちを連れ立って外へ向かった。
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