真実とは作られるもの 五
「違う。迷宮を攻略したのは偉業じゃ。本来であれば村総出で宴を催すべき快事。だが、その機会を奪ったのはこやつらの悪意じゃ。お主に責任はない。困難を乗り越えたものが秘宝を得るのは当然のことではないか」
長老の言葉に何も言えなくなってしまう。
いつもそうだ。長老の言葉には力があり、言っている内容だって、それこそこちらが満足する答えそのものなのである。
だからこそ、ここで肯定するわけにはいかない。
これはおれが決めたことなのだ。
この男を生かすこと。
だから、そのためにはっきりと言葉を伝える必要があった。
「けれど、自分の私利私欲のために秘宝を得たのは事実です。そのせいで大和はこの集落の襲撃を決め、その上集落の皆を皆殺しにしようとした。だから、この件に関する責任はおれにあります」
「だからといってお前を罰してなんになる。そんなことよりもこの男から情報を抜き出し、大和に報復せねばならん」
「もちろん、報復には賛成です。この男から情報を聞き出すのも。けれど、この男は生かしておくべきなんです」
「なぜじゃ?」
「こいつが一番シブサワを恨んでいるからです」
家族を奪られ、こき使われ、望まぬことも腐るほどやらされた。
しかも、自分の意思を操られた状態でだ。そんなクソみたいな状況で生き残り、この男はここにいるのだ。
なら、こいつを使ってやるのが情けってもんだろう。なにより、
「それに、この男の支配はおれが解除しました。そうでなければ、さらに犠牲者を生んでいたかもしれない。それを防いだんです。この男のことは、おれに任せてください」
「シブサワ…?」
ぼそりと呟く声に周囲の視線が集中した。
妙に響く声だったし、このタイミングで最も大事な言葉を吐いたからだ。おれの説得する言葉の根源にはこの男がシブサワに復讐を果たすという強烈な目的意識を持っていることが重要なのだ。
果たして、
「あいつは、どこにいる…っ?」
効果は予想以上だった。
びりびりと肌に突き刺さるような重圧。燃え盛る炎のように両目に宿った光に、思わず身構えてしまった。長老がこの変化に気づかないはずがなく、瞬時に戦闘体勢に移ったのが見てとれた。
「それはあんたの方が知ってるはずだろ」
ようやく正気に戻ったらしい。
おれの言葉にも反応を見せ、タカムラは強烈な視線を向けてきた。
「あのクズを殺せるならなんでもいい。その後にどうしようがあんたらの自由だ。けどよ、あいつだけはこの手にぶち殺さなきゃよぉ、気が済まねえんだよ…っ!」
鬼の形相で叫ぶ。
うん、実にいい。
思った通りの反応をようやく引き出すことができた。
「どうです、長老? この男を生かした方が」
「ダメじゃ」
「シブサワだけではない。大和諸共殲滅せねば死んでいった者達は浮かばれん」
うん。
こっちはこっちで殺意がすごすぎた。
長老が初めて本気の生の感情を露わにした。それだけで正直ちびりそうになったが、タカムラも負けてはいなかった。
うん。
多分、うまくいった気がする。




