リファイナンス
「シブサワを恨んでいるんですか?」
その一言に、彼はただ沈黙した。
それだけじゃない。表情もどこか虚で、生気が一瞬でなくなってしまったのだ。明らかな異常に確信がまた一つ。
やはり、支配されている。
おれがアスラにスキルを使った時に近い。けれど、明確な違いがある。おれのスキル行使では一定時間対象を思い通りに操るが、この男は操られているわけではないようだ。
多分、シブサワに疑問を抱くことを禁じられている。
敵意、悪意、殺意と言い換えてもいい。とにかく思考の自由を奪って、裏切りを許さないつもりなんだろう。
「言い方を変えます。今の自分に疑問はありますか?」
「あ? 今だって疑問だらけだよ。まるで夢みてえさ。とびっきりの悪夢だがね」
質問を変えただけで、男は正気を取り戻した。けれど、さっきまでの空白を意識してはいないようだった。
思ったよりも厄介だ。
質問の仕方一つで意識を飛ばされては話が前に進まない。言葉を選んで彼自身に理解してもらう必要がある。あるいは、敵意や悪意を抱くことなく縁を切る方向に仕向けるしかないか。
できるわけねえだろ、おれは詐欺師じゃねえんだぞ。
我ながらキレの悪いノリツッコミを頭の中で反芻させ、どうにか投げ出さないように気合いを入れ直す。
適当な言い訳をしてこのタイミングを逃すわけにはいかない。
ここで対抗策を見出しておかなければ、それこそ勝ち目がなくなる。こんな大規模侵攻をするからにはおれたちのことも監視しているはずだし、第二波や第三波の計画だってあるだろう。搦手だって使ってくるだろうし、主導権を渡してはいけないのだ。
相手に舐められたらそれこそ終わりだ。ここで強烈なカウンターをぶち込んでやる。
「なら、目を覚まさないといけないんじゃないんですか?」
「お前、ガキのくせに面倒な言い回しするな。いや、中身はもう四十超えてんだけっか? くせえ言い回ししてんじゃねえよおっさん」
「殺すぞお前…!」
いかん、素が出てしまった。
この臍曲がり野郎が。こんな状況でも強がる姿には好感を持たないでもないが、そんな男が支配されていることがなんともむなしい気分になる。
それだけ、金ってのは人間の根源的なものを掌握することができるのだ。
銀行員として働いている過程で壊れる人間や変わっていく人間をよく見てきた。
「おれのことはいいんですよ。とにかくこのまま寝ぼけたまま死んでいいのかってことです。あんた、こんなとこで死んでいいなんて思ってないでしょ」
「そりゃそうだ。死んでいいなんて思えるのはガキのうちだけだよ。生きてりゃ家族だとか大事なもんができる。そいつらのためにも出来るだけ死なないようにしなくちゃならねえ」
「だったら」
「けどな、命の使い道ってのも決まるんだ。だから、おれはお前さんの村を襲ってこれだけの命を奪った。それが正しいことなわけがねえ。それでも、おれは大切なもんのためにそうしたんだ。そのせいでこんな場面になったことは後悔もあるし悔いもあるが、納得してもいる」
「だから、余計なおせっかいならやめてくれ。見ず知らずのやつに命を救われたって」
「だから、命の使い方を変えろっつってんだよ」
一言。
我ながら考えた末での言葉じゃない。
ただあまりに自然と言葉が出てしまった。悪い癖だが、自棄になってる人間を見るとどうしても一言言ってやりたくなってしまうの。余計なおせっかいなのはその通り。けれど、救える手段があるのになにもしないでいられるほど、おれは気は長くないのだ。
「こんなクソつまらない使い方じゃなくて、てめえのもんを奪い返すために使え。それが出来ないってんなら出来るようにしてやるよ」
「リファイナンスだ。おれに全て任せとけ」
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