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真実とは 続


「何やってんだよ、母ちゃん…」


 母親を名前で呼ぶことに違和感があり、結局母ちゃん呼びになってしまった。

 いや、そりゃ、なんでか空に浮かんで雷雲とか巻き起こされたら逆に普段の呼び方に戻るのは当然なのかもしれない。だめだ、明らかに思考がバグってる。

 衝撃的なことが起こりすぎて現状をうまく処理できていないんだ。じっと見つめられたっておれがやることは変わらないってのに、どうしておれが悔い改めるのを待っているんだろう。

 

 おれはこの男を生かすと決めたのだ。


 見ているだけならそのまま何もするんじゃねえ。


「ほんとに頑固だね、あんたは」

 

 おれの思考を読んだわけではないだろう。けれど、それだけ態度に現れていたのかもしれない。母ちゃんは呆れたと言わんばかりに肩を落とした後、


「あんた自身もこうなる覚悟があるってことでいいんだね?」


 空から何体も黒ずみの塊を放り投げてきた。正確に言えば、空中に浮かせていた物体を落としただけの話だ。

 けれど、その光景はまさしく地獄のような光景でしかなかったのだ。

 肉親がそんな真似をしているのを見て平静を保てる方が少ないんじゃないだろうか。少なくとも、おれは保てる方じゃなかった。


「馬鹿な真似してんじゃねえっ!」


 やっぱり頭がバグってる。

 死体をぞんざいに扱う態度に怒りが湧いてしまった。そりゃ、確かに集落のみんなも殺された。だからと言って、死んだ人間にまで鞭打つのは違うと思ったのだ。それこそ、前世での価値観でしかないことはわかっていはいたんだが。


「侵略者をまともに扱う馬鹿がどこにいる」


 ごもっとも。

 我ながら論点がずれていることなんて当然わかっていたが、それでもどうにかしてお茶に濁せないかを考えてしまっていた。それだけ真正面から今の母に向き合うこと自体が馬鹿らしいことだと本気で思ってたからだ。

 

 それだけ圧倒的なのだ。

 

 あれだけ脅威だった伊藤咲奈がまるで声を出すこともできないくらい。


「それで、貴様はいつまで黙っているつもりだ? 一矢報いる度胸すらないようだが」


 母の視線がおれを越えて男に向いている。

 男はどこか投げやりな表情を浮かべ、


「意味がない。指一本動かせば殺すだろ?」


「当然だな。死に方も選べん愚図か、貴様」

 

 背筋が凍るようなやりとりだ。

 母の殺意は紛れもない本物だ。一瞬でも気に食わないことがあればその瞬間にこの男は死ぬのだ。

 それだけは絶対に避けたい。

 何せ、ここでこの男に死なれたら、多分だが、二度とシブサワの名を聞くことはないという確信があったのだ。

 これだけのことをしでかした奴が雲隠れするのを許せるわけがない。


 なにより、


「母ちゃん。待ってくれ」


「…理由をいいな。安い感傷なら無駄だよ。それ以上に私は怒ってるからね」


「わかってる。おれだって頭に来てるし許すことなんで出来るはずない」



「《《こいつには利用価値があるんだ》》。《《だから》》、《《少しだけ見ててくれ》》」

 

 おれにとってはシブサワに対抗できるかどうかの資金石になるのだ。



 

 

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