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幼年期の終わり 再々再々再


 早い。

 

 言葉を発する間もない。

 まるで風みたいな速度で駆け抜ける背中をただ見送るしかない。

 けれど、それだけではだめなのだ。

 いくら彼女が身体能力ゴリラでも空を飛べるはずもない。どれだけの脚力があろうとも遥か上空にいるあの男には届かない。


 ──そのまま! 全力で蹴り上げてっ!


 蹴り上げる?

 確かにそう言っていた。

 なにを、なんてことは考えるまでもない。全速力で駆ける彼女の向かう先はアスラだったのだから。

 着地の体勢のままでいるアスラ。

 今のアスラに意識はない。おれの意思でのみ動く兵器でしかないのだ。

 だから、この選択はあくまでおれの選択だ。

 

 彼女に従うか、従わないか。

 

 当然従う選択しかない。

 全力で魔力を込めた蹴りで伊藤咲奈を蹴り上げる。

 けれど、当然しくじればダメージを負うのは伊藤咲奈だ。いくら彼女がゴリラだとは言え、膨大な魔力が込められたアスラの蹴りをくらって無事ですむとは思えない。…いや、それ自体はどうでもいいんだけれども。

 とにかく思考の時間はほぼない。

 すでに衝突直前のタイミングで、伊藤咲奈は一切スピードを緩めていない。

 こちらのタイミングに合わせる気はないのだろう。だからこそ、おれも躊躇いなく全力でアスラに蹴りを打たせた。

 

 直後、伊藤咲奈が消えた。


「意味わかんねえ…」


 呟いた言葉はまごうごとなき本音だった。

 アスラが蹴りを放った直後、文字通り伊藤咲奈は消えた。蹴った感覚がなかった。アスラを通して感覚を共有していたが明らかに空振った感触しかなかったのだ。

 けれど、妙な確信があって視線を上空へ向けた。


 まるでロケットみたいな速度で一直線に上空へ向かう伊藤咲奈らしき物体の姿を見た。

 

 ジンキを強化する。

 同時に、視力が強化され、鮮明に状況を把握することができた。

 

「…まずい!」


 最初に気づいたのはイナンナさんだった。

 空間の歪み、と言えばいいのか。

 遠くから見ているからこそ、あるいは上空だからこそ見える歪みと言えばいいのか。魔力は一切感じない。おそらくはジンキだ。雰囲気がなんとなくだが似ている気がする。

 

 おそらくはあの歪みから鉄の矢が飛び出してくるはず。


 その予感は秒を待たずに実現した。

 まるで槍のような鉄の矢が伊藤咲奈を囲うように現れた。

 音もなく、当たり前のように襲いかかっていく。

 

 刹那、伊藤咲奈は空中で加速した。

 

 何をしたのかはわからない。いや、違う。目の前の光景が信じられなかったのだ。


 躍動感のある動きで無数の矢を足場にして駆け抜けた。

 

 自分で目にしておきながらそれが事実だとは到底思えなかった。というか、あまりに見事すぎて見入ってしまったのだ。

 

 人間が空中であそこまで動けるという事実とそれをこんな土壇場で魅せつける行動。


 《《ファンタジスタ》》。


 まさか、こんなタイミングでスキルを理解させられるとは思えなかった。

 そのままの勢いで伊藤咲奈は男に追いつき。


 あっさりと蹴り落としたのだった。

 

読んでいただきありがとうございました!

明日も投稿予定ですので、また見てください!

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