幼年期の終わり 再々々
『おい、小僧』
不意に、頭の中に直接声が響いた。
嫌な感覚だ。
何か強制力があるのか発動寸前だったスキルまで止まってしまった。このタイミングでの呼びかけ。そして、この強烈な視線。どう考えても、この声の主人は一人しかいなかった。
「愚弟! 今のは…!」
ジーナ姉だけではなく、全員がおれを見た。
その迂闊さに一瞬背筋が凍った。
けれど、予期していた奇襲はない。どうやら、声の主人は本気で呼びかけただけのようだった。舐められているのか、それとも向こうにも何か事情があるのか。
現時点ではどちらかを判断することすらできない。
ならば、
「なんだよ、おっさん」
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
対話によって打開策を模索するしか無い。
『お前がトールだな? 面倒なことをしでかしてくれたな』
「…あ? お前、何ふざけたこと抜かしてんだよ、おい」
思わず声が荒ぶってしっまった。自分自身、湧き上がる怒りに振り回されそうになるのを自覚した。いや、だって、どう考えてもおかしい。ここまでのことをやらかしてくれたくせにおれが悪いとでも言わんとする物言いが全力で気に食わなかった。
そりゃ、挑発目的ってのはわかる。
だが、人として言っていいことと悪いこともわかんねえのかとぶん殴ってやりたくなったのだ。
続く言葉だっておおよそはわかる。どうせ、おれのせいだってことを全面に押し出しながらいちゃもんをつけてくるのだ。
まぁ、
『ふん。おれたちだってこんなクソみてえな真似をしたくてやったわけじゃねえ。ただ、お前がやりすぎたからこうなったんじゃねえか』
「殺すぞ、てめえ…っ!」
『おいおい、さすがは鬼の子だな。てめえのことを棚に上げるとは大したもんだ』
だからといって大人しくしている理由はない。
こちらの反応になぜか挑発的な言葉を繰り返すのが気になった。そこまでしておれにけし掛けさせたいのか。いや、確かにトラップでも仕掛けているならそういうこともあるのかもしれない。
それを仕掛けるだけの時間は確かにあったはずだ。倒れ伏した彼女たちを見れば、少なくとも一日はそのまま放置されていたことはわかる。
その事実に怒りが湧き上がるのを感じつつ、けれど、この男がそんな真似をするはずがないと思った。
背後からの奇襲。
一度失敗してからの対話の時点でお察しである。
おれは、今度こそスキルを発動することを決めた。
アスラに対して強制執行を行い、これまでの貸しを全て魔力へ変換する。言葉にすれば単純である。けれど、貸しというのが何を指すのかは正直おれにもわからない。
だから、本当は予想通りの魔力を確保できるのかも怪しいと思っていた。
けれど、ここで引き下がるのはあり得ない。散り散りになった時点で相手の思う壺なのだ。あんな奇襲、おれだけでは防げない。全員で密集しているからこそ防げるのである。
だからこそ、ここでアスラを全力で突っ込ませるしかないのだ。
「覚悟しろよ…っ!」
『はっ、それこそこっちのセリフだ。全力で来い。お前如きじゃ──』
『──時間切れか』
唐突な言葉に虚を突かれる。
男が放った言葉の意味を考える前に、事態は急変した。
空から強烈な光が降ってきたのだ。
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