第1話 転生
葵さんを助ける為にトラックに突っ込み、手を伸ばしたことまでは覚えている。
あの時、あの伸ばした手はとどいただろうか、葵さんに少しでも触れられただろうか。
………俺は死んだんだ、そんな事考えても無駄か…。
だが何故意識が残っているんだ?目の前は真っ暗だが意識だけはある。もしかしてこれが死後の世界の“無”ってやつなのか?
それなら最悪だな…俺は一生このままなのか…?
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音がする。徐々に音が大きくなっている気がする。意識がハッキリしてきた。
俺、まだ死んでなかったのか?だけども体が動かねぇ…。麻酔でも打たれたのか?だからなのか?
いや、違うな。
!!
目が開いた。
白い天井が見える、病院だろうか。とにかく安心だ、俺は生きてる。
葵さんにも触れれたんだ、きっと葵さんも生きているだろう。だけどもやっぱり体は…動く。
体重が減ったのか軽々とストレス無く、動いた。
体を上げると、俺は周りの風景を見た。
俺の知っている病院の風景ではなかった。
例えるならば、100年前ぐらいの欧州のような病院だろうか、一つの大きな部屋で、ドレス状のナース服を着た看護師?達が俺と同じ様に寝っ転がっている患者を見ていた。
その時点で俺の違和感は限界を達していたが、それ以前にその違和感を超える違和感があった。
“どこをどう見たって周りの奴らは殆ど人間ではなかった”
いわゆる、人外ってやつか?兎や猫の擬人化だった。それにとても美人だ。患者は人間もいるが、人型のトカゲや犬が寝ていた。
これってまさか…異世界転生ってやつか…?
いやいやいや!トラックとかいう異世界転生装置に俺は確かに轢かれたぞ?!だけども本当に異世界なんかあったのか?!夢だろ!おい!
どうなってんだよ…これ…マジの異世界じゃねぇか…
俺は興奮と同時に恐怖もあった。
一回事の経緯を整理しよう…俺は葵さんを助ける為、トラックに身を投げ、轢かれたんだよな…?それで異世界転生?ラノベじゃねぇんだからある訳ねぇだろ…きっと夢だ夢。麻酔撃たれて夢でも見てんだな。
よし、ほっぺをつねってみよう。
痛い。想像以上に痛い。
あ、マジか。マジで異世界転生か。
病院にいる理由も、転生された場所で俺が倒れていて、誰かが救護を要請したんだろうか。
俺は制服のままだ。ブレザーが脱がされ、白シャツだけになっている。
登校初日に異世界について少し語っていたが…まさか本当に転生するとは…。
俺はふと横のベッドを見た。
?!葵…さん…?
なんと、そこには葵さんが天使のような顔で寝ていた。いや気絶をしていた。
え?え?どいうこと?なんで?なんで葵さんがいるの?は…?は?
異世界に転生をした事実よりも、葵さんが隣にいた方が驚いた。
ここで俺は脳を全体的に使い、考察をしてみる。
葵さんが俺と同じ様に異世界に転生してしまった…?という事だよな…。つまり……………
俺は葵さんを助けようとトラックに身を投げ、自分だけ死に、葵さんを助けたつもりだったが…実際は助けられていなかった…って事だよな…。
うぎゃあああああああああああああ!!!!!何してんだ俺ぇぇぇぇぇえええええ!!!
葵さんだけ助けるつもりだったのに…巻き込んじまった…。
俺は…なんてことを…。
俺がもう少し早く気づいて走っていたら、葵さんを助けられていたかもしれない。なのに…なんで…。
俺は後悔と罪悪感に押し潰され、泣き崩れた。
―――――――――――――・・・・・・・・・・・
「あの〜大丈夫でしょうか?今はまだ安静にしていた方が良いかと…」
号泣している俺に話しかけてきたのは、白いナース姿の擬人化猫の看護師だった。
目はパッチリしていて赤色の瞳がとても綺麗だった。もちろん、猫耳があった。だがそれは現実世界で見るコスプレとは違い、本物感で溢れていた。
俺はすぐに涙を拭き、擬人化猫ナースに答えた。
「あ、すいません…こっちの話です…すいません…」
なんなんだ、こっちは後悔の念に浸っていたんだぞ、普通なら無視をするだろ。
だがしかし、こっちから見たら相手は異国人と同じだ、常識が違うのも無理はないか。
「それなら良いですけど…一応私、貴方がなぜ、倒れていたのか記録する為に聞きに来たんですよ」
あれ、言葉が通じる。てっきり通じないかと思ってたが。もしかして神様が授けてくれたのか?
にしても透き通る声だ、正直めっちゃ可愛い。だけども、少し気になる単語を言ったな?なんだって、記録?何故?学校の保健室なら記録をする事はあるかもしれないが、ここは公共の病院だろう?記録なんてする必要性はあるのか?
それとも異世界の病院のルールなのか?
「え、あ、そうなんですね。ですがなぜ、記録をするのでしょうか?」
「貴方は数少ない異界から来た人間ですから、国の決まりで異界から来た人間は特異性がある可能性が高いので、仕方がなく記録をしていおります」
俺が異世界転生した事を分かっているのか…制服の見た目からなのか?それとも特徴を押さえているからなのか?
にしても、数少ない異界から来た人間…俺と葵さん以外にも転生してきた者が一定数いるのか…驚いたな…。
特異性ってのはなんだ?やっぱり異世界転生ラノベみたいにチート級能力的なやつなのか?
もしかしたら俺にもあるとか…やっべ興奮してきた。
「俺達以外にもいるんですね…!特異性ってのは何なんですか?魔法的な何かですか?」
「はい、貴方と彼女を合わせて確認できている異界人は合計で5人です。特異性というのは、魔術の能力値が桁外れに高い方など、色々です」
5人…俺と葵さん以外で3人か…ここの病院を出たら是非お会いしたいな。
それにしても、やっぱり魔法はあるのか…また中二病心が復活しそうだ。それなら俺にも特異性があるのか?!神的な何かが?!?!
「すいません、私にもその魔術的な特異性はあるんですか?」
「多分あると思いますが、魔術的な何かかはわかりません。魔術専門家に見てもらわないと…」
なるほどな、そりゃただの擬人化猫ナースにはわからんか。
よし、取り敢えず目標は決まったな。早く退院してこの世界に慣れないとな。
「わかりました。それで退院はいつできるのでしょうか?」
「そうですね…特に異常は見当たらないので、明日には退院できるかと…」
明日か、十分に考えを整理する時間はありそうだな。
「さっきから思っていたのですが、貴方はなぜこちらの言語を話せるのですか?」
「それがわからないんですよ………あっ…」
もしかして、俺の特異性は………
“言語能力”
マジかよぉ!それじゃあチート無双異世界ライフができねぇじゃねぇかよ!
「はぁ…終わった…」
「え?え?急にため息ついてどうしたんですか?!」
「ああいや…こっちの話だから…はは…」
「そ、そうですか…………まぁとにかくそういう事なので、早くなぜ貴方は倒れていたのか、この国に来る前に何があってここに来たのか、教えて下さい」
駄目だ…俺の能力が言語能力…?
いやまて…言語能力と追加で何かチート級の能力があるかもしれないだろ!何落ち込んでんだ俺!
「わ、わかりました。事の経緯は・・・・
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って感じです」
「なるほどなるほど…やっぱりのその謎の機械“トラック”が出てくるんですね…ご協力ありがとうございました」
謎の機械ねぇ…てか俺以外の転生者もトラックに轢かれて来たのか…皆災難だったね。
「あの、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「俺と彼女以外の転生者は今どこにいるんですか?」
「すいません…それはちょっとわからないですね…ごめんなさい…」
一応聞いてみたが、流石にわからないか。でもまぁ、退院した後の目標は大体決まったな。
・魔術専門家の所へ行き、俺と葵さんの特異性を調べる。
・他の転生者を探す。
・異世界生活に慣れる。
だがしかし…葵さんには謝らないとな…俺がもっと速く走っていれば…。
ヒヨっても仕方がないな、今は異世界生活に慣れなきゃだめだ。
俺は葵さんの方を横目で見た。
あ、起きた。
どう説明しようか…謝るしか…ないよな…。
「ん、んん…あれ…ここ…どこ…?私確か…轢かれたんだっけ…」
葵さんは眠そうな顔をしながら俺の方を向いた。
「あれ…君は…白…鳥君…?」
俺の名前覚えてくれていた事に驚いた。やはりスペックが高過ぎる。
「なんで…私………!!!!」
葵さんは驚いた表情で周りを見渡した。そりゃ驚くだろうな。周りは人外だらけなんだらかな。
「えぇと…葵さん?ちょっといい?」
俺は勇気を出して話しかけた。今は状況を説明すべきだ。
「な…なにここ…なんで…?なんで…?白鳥君…どいう事なの…?」
「驚くのも無理はないですよね…今から説明しますよ」
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「異世界転生…?なんなのそれ…白鳥君が私の為にトラックに身を挺して助けたのに…」
「ごめんなさい葵さん…助けられなくて…」
「………いいですよ、私の事を思って助けてくれたのですし、そもそも周りに大勢居たのに、助けてくれたのは白鳥君だけなんですよ?落ち込まないでください、私にも非がありますから…」
て…天使だ…。こんな取り返しのつかない事をしたのにも関わらずに、この俺を許してくれるなんて…。
「とにかく!落ち込んでないで!ここで生活する術を考えますよ!」
にしても…俺も葵さんも妙に理解が早いな…やっぱり葵さんもラノベを読んでいて、結構この世界に来て楽しんでいるのか…?
「そ、そうですね!自分も色々考えたんですよ」
「そうなの?白鳥君って結構計画性高くて頼れます…」
なんとも嬉しい言葉だ。こんな美少女に褒められるとは、やっぱり転生ってのも悪くないな…。
俺はまだ美少女との異世界生活の攻略法なんて知らないし、正直これからが不安過ぎる。
だが、俺の物語はまだ始まったばかりだ。
俺は……………………………
“葵さんとこの異世界生活を生き延びてやる!”
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