元義妹、親友と仲直りする。そして元義兄覚悟を決める
騒動を終えて、俺達は病院にいた。
里見希咲姫と敦(仮称)はまりあちゃんの家を出るとき別れたが、彼女はもう二度と二人に関わらないだろう。
手当をしてもらったが、酷い見た目の割に傷は大したことなかったのは幸いだ。
けど、待合室で待っていた二人はそうではなかったらしい。小走りで俺の元へやってきて、不安そうに見上げてくる。
「兄さん、大丈夫ですか?」
「ああ。何日かすれば治るってさ」
とはいっても、包帯のせいで前が見づらいし、足どりが悪い。
「兄さん、もしだったら私が肩を貸しますが」
「いや、あたしが貸すっス」
「いえ、まりあも大変だったのですし私は妹ですし」
「それを言うならあたしのせいだし」
「それにまりあは背が低いので逆に兄さんが歩きづらくなります」
「れみだってそんな変わんないじゃん!?」
「ちょ、ふ、二人とも?」
何故だか二人は俺の肩を取り合うようにして、引っ張りあう。
「んなこと言って~~~。れみはこの人とくっつきたいだけっしょ?」
「そんなわけないではありませんか。私は兄さんが頼りなさすぎるから――」
「ぷっあ、ははは・・・・・・・・・」
二人のやりとりを真ん中から見ていたら、つい吹きだしてしまった。二人は揃ってなんだ? という顔をしている。
「兄さん?」
「どうかしたっスか?」
「いや、ついさ。すっかり元通りだなって」
「元通り?」
「ああ。だって二人とも絶交してたの忘れてただろ」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
あ。やっちまった。
自分の失敗に気づいたけど、時既に遅し。れみとまりあちゃんは途端に気まずい雰囲気を取り戻してしまって静かに俺から離れていく。
俺の馬鹿ちん。
「れみ、あの、さ?」
最初口火を切ろうとしたのは、まりあちゃんだった。
けど、もじもじとして気まずそうに、けど意を決して正面に向き直り、
「「ごめんなさい」」
れみと同時に頭を下げた。
「「え?」」
お互い相手が謝るなんておもってなかったんだろう。俺もそうだった。しかもタイミングが重なったこともあって、つい顔を上げて目を瞬かせている。
「「えっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
またもや声が揃って、二人は気恥ずかしくなったのか照れた様子で相手をチラチラと見る。
「まりあ・・・・・・・・・・また、私の友達になってくれませんか?」
「あたしも、お願い・・・・・・・・・」
二人はそのまま小さく笑いあう。
「でも、どうして里見さん達のこと一人で抱えようとしたんですか?」
「そ、それはさぁ? まぁいいじゃん? 終わったことなんだし・・・・・・・・・」
「良くありません。結果良ければ全てよしなんていうのは兄さんだけの専売特許で充分です」
あれ、俺ディスられてる?
「じゃあれみだったら逆にできた? 相談すること」
「それは・・・・・・・・・」
「ほら~~。できないじゃん」
「話を変えないでください。本当にまりあは」
「へへへ~~~」
いつもの二人の光景なんだろうってくらい自然だった。
然り調子のれみと、若干嬉しそうなまりあちゃんには喧嘩していた気配なんて既にない。さっきまで気まずかったのも忘れているとおもうくらいだ。
なんだか、羨ましいな。
喧嘩しても仲直りできる友達がどれだけいるんだろう。
「よし、そろそろ帰るか」
ずっと眺めていたかったけど、ずっと病院にいるわけにはいかない。二人に声をかけて、待合室を後にする。
「あれ? れみ携帯鳴ってない?」
「あら? たしかに」
「ごめんなさい。電話してから行くので、まりあ達は先に行ってください」
「ん? ん~~~」
まりあちゃんはすぐに行ってしまったけど、一瞬だけ翳りがさしたれみがなんとなく気になった俺は、その場に留まる。
「兄さんも行ってください」
「どうした?」
「いえ、その・・・・・・・・・」
なんだかおかしい。
戸惑いがちに視線をゆっくりと彷徨わせている。
「電話だろ? 誰からだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お義母さんからです」
ピクリと顔の神経が反応するのを感じた。
「はい、もしもし。れみです。はい」
れみも感じとったんだろう。気遣わしげに背を向け、通話をはじめた。
れみが俺を先に行かせようとした理由がわかってしまったが、それでも一人残していくことができず。
「え、学校から連絡・・・・・・・・・?」
!?
「いえ、それは・・・・・・・・・家には戻ります。でも・・・・・・・・・サボったとかそういうわけでは・・・・・・・・・」
マズい。
れみと一緒にまりあちゃんの元へ行くとき早退したのがバレたんだ。
しかも事情を知らないれみの両親からすれば体調不良の子供が家に帰っていないなんておかしいとおもうのは当然。事情が事情だからか、れみも説明できないでいる。
どうする?
どうすればいい?
「ごめんなさい・・・・・・・・・お義母さん・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
フラッシュバックする。
家を出て、最後に別れたときのれみ。
そして、さっきまりあちゃんに謝ったれみが。
絶縁していた健の言葉が。
俺を諭してくれた小田先輩が。
れみ達に報復しようとしていた里見希咲姫と敦(仮称)、そしてその二人を許したまりあちゃんが。
次々と矢継ぎ早に脳内で駆け巡る。
ダメだ。
このままでいいわけがない。
だって、皆が教えてくれた。
どれだけ難しくても、どんな事情であっても、過去になにがあっても、どんな間柄でも、どれだけこわくても。
もっと大切なことがあるなら行動に移さなければダメなんだと。
「え? にいさ――」
携帯を急に奪われたれみは目を丸くした。
「もしもし」
【・・・・・・・・・? どちら様? 娘と一緒なの?】
「俺・・・・・・・・・は・・・・・・・・・」
【もしもし?】
喋る内容を用意していたわけじゃなかった。
けど、きっと用意していたとしても喋れなかっただろう。予行演習の比じゃない。会うのを拒んでいた人との会話が、これほど難しいなんて。
不安。恐怖。緊張。ぐるぐると感情が移り変わって、混ざって、頭が気持ち悪くなって吐きそうなほどだ。
「兄さん――」
ぎゅううう、と手を握られる、柔らかい感触。仄かに伝わる体温。そしてれみの顔。泣きそうな、請うような、心配そうな、大切な女の子を彩るすべてが、知覚するごとに頑なな心を解きほぐして、最後の勇気をくれた。
【もしもし? あなた誰なの? れみとどういう関係?】
「・・・・・・・・・お袋」
【え?】
「俺、瞬だ。上杉瞬だよ」
【・・・・・・・・・・・・?】
息を呑むのがわかった。
きっと喉が震えているんだろう。言葉にならない吐息混じりの
【しゅ、瞬・・・・・・・・・え?】
不思議だ。
今は穏やかに冷静でいられる。
どこから説明しようか。
話さなければいけないことは山ほどある。
俺とれみがどうして一緒にいるのか。
どうやって再会したのか。
今日なにがあったのか。
でも、最初に話す言葉は
「久しぶり・・・・・・・・・です・・・・・・・・・」




