元義妹、元同級生と遭遇する
里見希咲姫。かつてのれみ達の同級生。偶然にも彼女と再び遭遇してしまった。しかも彼女は一人じゃなく、柄の悪い男と一緒だ。
いつだったか、まりあちゃんにしていたようにゾッとするほどの視線をれみに送っている。
「お、きさき。なんだ? 知り合いか?」
「こいつよこいつ! こいつのせいで退学になったのよ!」
「へぇ。こいつが例の。なんだ、ガキじゃねぇか」
一緒にいる男は舐るようにれみを足から旋毛までゲスな目つきで見回す。こわい風体だけど、嫌悪感を抱くには充分だった。
「あの、以前どこかでお会いしましたか?」
「はぁ!?」
自分が退学させるほどの問題をおこした同級生を忘れるなんて、そうそうないはずなのにれみは彼女を覚えていないらしい。小首を傾げて不思議そうな顔をしている。
「あ、あんた忘れたの!?」
「申し訳ないのですが。どうもそうみたいです」
「こ、この! ふざけんなよ!?」
「おい、きさき。落ち着けよ。うぜぇ」
「あんたは黙ってなよ! 竹田と北条院のせいでどれだけ!」
「おい、やめろ!」
里見きさきがれみに掴みかかろうとしたので、慌てて間に入った。
「ああ!? なんだよ! 北条院の彼氏がなんでこいつとここにいるんだ!」
「彼氏・・・・・・・・・?」
「いや、彼氏じゃな、今はそこ重要じゃない! 怒らないで違うから! というか俺の(妹の)れみに乱暴なことはするなよ!」
「!」
「ああ!? 何様だ! もういい! タツ! やっちゃってよ!」
「はぁ? お前なぁ・・・・・・・・・勘弁しろよ。お前のせいでこっちは寝不足だってのに」
「いいでしょどうせ! もう一人も二人も同じようなもんじゃ――」
「ち、今日はもう目的終わってんだろ?」
「うっさい! 誰の金で好き放題遊べてると――」
なにやら揉めているけど、このままここにいると物騒なことになるって肌で感じとった。繋いだままの手を引っ張ってそのまま走りだす。
「れみ、逃げるぞ!」
「あ! 待ておら!」
さっきのれみとの追いかけっこのときよりも身の危険を感じているからか、必死に走り抜ける。二人は追いかけてくる意志はないみたいだけど、油断はできない。
あの子のれみとまりあちゃんへの憎悪は、映画館のときも同じだけど、尋常じゃない。それに一緒にいた男もアウトローというかヤンキーっぽさが前面に出すぎている風体だ。相手を威圧することに慣れている、独特の雰囲気があった。
「あの人、まりあのこと言ってましたけど兄さんとどういう?」
「あの子、お前とまりあちゃんの同級生だったそうだ。覚えてないのか?」
「?」
「いや、とにかくまりあちゃんと出掛けたときあの子とばったり会って、それからあの子とまりあちゃんが揉めてって話を聞いたよ」
「ああ、あのときの」
ようやく符に落ちたけど、徹底して里見きさきの顔自体を覚えていないれみに呆れるやら絶句するやら。そのまま里見達と距離がとれたこともあって、安心して体への負担が戻ってきた。明日は筋肉痛確定だろうって具合に下半身がパンパンに疲れている。
手を繋いでたままだったことに遅ればせながら気づいた。そのまま手を離して―――
「あ」
「・・・・・・・・・」
きゅっと少しだけ手の力が強められた。
名残を惜しむような呟き。無意識だったのか。それともまりあちゃんとのことが不安となって表出したのか。
小さいときのれみを思い出す。離したくなくなったのは俺の兄心が働いたからだろうけど、離せない。
「に、兄さん?」
「夜は危ないからな」
「こ、子供扱いしないでください。兄さんのくせに」
「さっきみたいな奴に絡まれるかもしれないし」
「う、」
れみは抗議をし続けていたけど、諦めたのかそのうちなにも言わなくなった。
段々と照れくさくなってきた。俺からやっといてなんなんだけど、今更やめると言いだすことも、続けることも恥ずかしい。
子供のときはよくこうして手を繋いでるのが当たり前で意識していなかったけど、成長したれみの手は細くてしっとりとしている。すべすべとしていながら柔らかい。
「れみもこわかっただろ? 俺も正直こわかったし」
「え、こわかったんですか?」
「ああ。あ~いう輩とは関わったことないしな。内心ガクブルよ」
「・・・・・・・・・こわかったのに私を助けたんですか?」
「オーバーだよ。そんなんじゃない。ただ逃げただけじゃないか」
「・・・・・・・・・まりあのときも?」
「いや。してない。いつだって誰にもできるわけじゃないよ。必死だったからできたんだ」
「必死・・・・・・・・・私だからですか?」
「・・・・・・・・・ああ」
「そんなだから私は・・・・・・・・・まだ許したくないのに・・・・・・・・・」
「え、なに?」
「なんでもありません」
そのまま家に向かうけど、どちらも口を開かないムズムズとした時間が過ぎていく。照れくさくて恥ずかしくて、ぎゅっと手に篭められる力がまた強くなったのと、指が手をなぞるような動きを神経がもろに敏感に感じとって、むず痒い恥ずかしさがわいてくる。
けど、少しだけ嬉しくて。懐かしくて。嫌な時間じゃなくて。
家に辿りつかなければいいのに、とおもってしまった。




