元義兄、友達と女子校にくる。
「うっひょー!! こいつが女子校かぁー! テンションあがって~~~~キタ―――――!!」
「待てコラ」
走り出そうとする健の首根っこを押さえる。れみの通う高校の校門は下校時間だからか、生徒がたくさん行き交っている。
ゲート脇に警備員が常駐していて監視カメラまである。厳戒すぎじゃないかとおもったが昨今の女子校ってこんなもんなんだろうか。
とにかくこのまま校内に足を踏み入れたが最後、駆けつけた警備員に囲まれて否応なしに来校目的を聞かれる。そうしたら万事休すだ。
今のままでは俺達がこの学校の生徒の関係者だと証明する手段がない。れみは証言してくれる可能性はゼロだろうし、最悪通報される。
「ふむ、なるほど了解した」
「なんで了解したのに行こうとしてんだ!」
「離せ! 目の前にヘブンがあるんだ!」
「あ! 違います警備員さん! 俺達別に怪しいものじゃありませんから! 無線使おうとしないで!?」
校門から急いで離れて、健を殴りたい衝動に駆られのを我慢し、尋ねる。
「お前・・・・・・なんで一緒に来た?」
「お前、れみちゃんとまりあちゃん仲直りさせたいんだろ?」
「・・・・・・」
「先輩の手前、納得したフリしたけどまりあちゃんのこと心配なんだろ? あ、その顔図星!? カァ~~~! このスケコマシ! 馬に蹴られて地獄に落ちろ!」
「それがお前が来るのとなんの関係があんだよ!?」
「関係はない!!」
「言っておくが、まりあちゃんのためじゃねぇ。れみのためだ」
俺のせいで友達と仲悪くなってしまうなんて、絶対にあっちゃいけない。
だって俺は知っているから。一度会えなくなればどれだけ後悔しても遅いってことをれみと離れて実感した。彼女と再会したのは奇跡みたいなもので、普通はありえない。だったらこのままれみとまりあちゃんが仲違いしたまま交流が途絶えてしまって、後悔しないわけがない。
だって二人は仲が良かった。いつだったかまりあちゃんが俺とれみが恋人だって勘違いしているとき、まりあちゃんだけじゃなく、れみもまりあちゃんのことを大切におもってるって顔で語っていた。
「まりあちゃんがれみと喧嘩したのだって、原因は俺にある。だったら俺がなんとかしないとダメだろ………」
「お前は本当に馬鹿だな。アホだ。クズだ。底なしの間抜けで童貞だ」
「お前決闘挑んでるのか?」
「だから俺が来たんだよ。争いの原因が来ても、どっちも話聞いてくれるわけねぇだろ。ある意味関わってない人間が事情を知らない体で来れば話くらいはできる。つまりは俺だ」
「………健………」
「俺もつい最近、ダチと仲直りした。だから、その経験を活かせるとおもうぜ?」
無駄に爽やかさを装ったスマイル。普段ならイラっとするけど、なんでだろう。こいつと友達で良かったって心の底からおもえる。
「けど、具体的にどうする? お前まりあちゃんの連絡先知ってるのか?」
「笑いながらスルーされましたがなにか?」
「じゃあ余計打つ手ねぇじゃん」
「大丈夫だって任せとけ。俺を誰だとおもってやがる。殺すぞ」
なんで急に強気な罵倒?
「明日は明日の風が、吹く。行雲流水、行き当たりばったりをモットーに掲げてるんだ」
ノープランてことじゃねぇか!
やっぱりこいつを友達と認めて損した!
今日は撤退だ撤退! 失敗が目に見えてる!
「まぁ見てろって」
「おい馬鹿!」
健は俺の制止もきかず、そのまま校門へとむかう。
警備員がこわいから逃げる準備のためにも、俺は遠くから成り行きを見守るしかない。
一体何をするつもりかと眺めていると、校門から出てきた生徒達の一団に話しかけた。
「ねぇ君達。北条院まりあちゃんて知ってる?」
おいどうすんだ。相手の子達固まっちゃってんじゃねぇか。そりゃそうだ。いきなり私服の年上男子が話しかけたら動揺するわ。
「俺、○×大学の学生なんだけど、前オープンスクール来た時あの子忘れ物しちゃってさ。大学の教授に頼まれて渡しにきたんだ」
学生証を提示してみせると、女の子達の警戒心が薄れた。どうする? という具合に顔色を見合わせている。
「〇×大学………?」
「そうそう。そこで今研究してるんだけどさぁ。マジ毎日死にそうなのよ~。あははは~~」
「あ、そういえば北条院さん竹田さんと一緒に夏休み行ってたっけ」
「マジ?」
「うん、本人達が盛り上がってるの聞いた」
「そうそう! れみちゃんだっけ。あの子も来てたなぁ。研究室で二人とも興味津々だったよ」
「研究室って、建築系のだったっけ?」
「そうそう。ちょうど先輩の手伝いで俺も夏休み大学行っててさぁ。そんとき案内してたんだよ」
「へぇ~~。そういえばそんなこと言ってたっけ」
「そう?」
「れみちゃんて、この子でしょ?」
「あ。これ大学の写真? 北条院も写ってんじゃん」
れみの下の名前を把握している風を装うのも、功を奏したのか。女の子達は一気に華やいだ。上手くいきかけていることに驚きを隠せない。
「でも、そういうのって大学が連絡くれるんじゃ?」
「ああ。本当は大学の事務室が預かってるしそういう仕組みになってるけど、誰が忘れ物をしたのかまではわからない。偶々俺が忘れ物を保管する場所を見て、これまりあちゃんのじゃね? っておもったから来たわけ」
「あ~~~……成程……?」
こいつ・・・・・・アドリブの天才か?!
こんな形で話せば、事情を知らないこの子達は「え、そうなの? そういうもん?」と信じてしまう! それにこちらから身分を明かすことによって不審者じゃありませんよ〜、とアピールしているから安心感を与えられる!
しかも本当のことを混ぜ合わせることで信憑性を与えている! どうしてれみとまりあちゃんの写真を、いつ撮ったのかはあとで詳しく聞くとして、健が正体を隠してれみ達の知り合いだって信じさせられている!
長井健二、おそろしい子!
「たしかあんた北条院さんの連絡先知ってたよね?」
「あ、ウチ連絡先知ってる。呼んでみようか」
「ごめん。お願い」
嘘だろおい!?
健のやつ、とてつもなく困難なミッションを作戦なしでコンプリートしやがった!
なんでこんな高度なことできるのに大学だとちゃらんぽらんなんだよ!? 健のくせになんとかなっちゃったよ! なんなのあいつ!?
なんでノープランであそこまで口から出まかせがポンポンポンポンおもいつく!?
健は隠れて頭だけ出している俺に、笑顔でサムズアップをしてきた。けど、目的を達成した勝利者のそれではない。
額には汗がダラダラと滲んでいて、蒼ざめている。無理してます、けどもう限界ですってありありと示している。
きっとナンパや知らない女の子に声をかけるなんて大胆な真似をしたことがなかったからだろう。死にかけている敗残兵くらいに痛々しい。
こいつ、なんでそこまで?
唇の動きが、
どうだ? 親友。
「健………!」
ぶわっと涙が出そうなほど、
友情。ただそれだけのために?
健が死にかけてまで助けてくれた理由に感謝と敬意しか感じない。
涙を流しながら、ただ敬礼で返した。




