元義兄、感心する。
実験が終わったあと、講義やなにやらで、昼食になった。隣にいる健は美味しそうにカレーを頬張っている。
「お前、さっき絶縁してたって言ってたよな?」
「あ? あ~~。高校のときのな。しょうもねぇ理由だけどよ」
それがなんだ? とばかりにカレーを食いながら目だけ向けてくる。
「いや。よく会おうとおもったって気になってな」
「あ~~。それな? 俺も最初どうすっかな~~って悩んだんだけどよ? 一回会ってみるかってよ」
「急すぎんだろ」
「だって会わねぇとどうなるかわからねぇじゃん」
健が一息に皿を持ち上げて、カレーを掻っ込んでいく。話すタイミングを待っているってだけじゃなく、健の言葉にある種の衝撃を受けた。
「俺はよ? たしかにそのダチは昔許せなかった。けどこのままでいいのかっておもうんだわ。会えなかったら許すことも仲直りもできる機会なくなってよ? 一生このままなんじゃないかって。そうしたら後悔すんじゃねぇかってよ」
「後悔?」
「ああ。あいつとは嫌な思い出で終わったけど、良い思い出もあるんだわ。だから最後に喧嘩したままの状態で終わっちまっていいのかってな? 本当に仲直りしなくていいのか? ってよ。このまま会わないでいると一生もやもやするんじゃないかってよ。だから最初に会ったときの初めの気持ちで決めようとおもってるんだ」
「………」
「そりゃあむこうがどうおもってるかわからねぇからよ。けど、」
「………」
「なんだよ?」
「お前、すげぇな」
「なんだよ。惚れたのか? よせやい男に貸す尻はねぇぞ?」
俺はなんとなく、健とその友達を自分の状況と重ねてしまっていた。
母親と俺。健と友達。
仲たがいした理由は違うけど、非常に似ている。
けど、俺は健みたいな考えにはなれていなかった。
会ったときに初めて抱いた感情のままになんて、きっと不安で想像すらできなかったし、後悔して引きずるなんて、おもってもいない。
けど、今はだ。将来的にはどうなるかわからない。
迷って、悩んでいた俺にとって、健の話は視界が少し開けたほどの話題だった。
「ありがとな」
「あ? なんで?」
「いや。けど、お前でも喧嘩することなんてあるんだな」
可能性の一つとして、そういう手段もあるのかもしれない。手段を教えたと知らないままの健に、なんとなくお礼を言った。
「だってあいつスマブラで負けそうになるとコントロ―ラー抜くし」
「しょうもな!」
「それにネスでPKサンダーとPKファイヤーしか使わないし」
「しょうもな!」
しょうもなさすぎてさっきのお礼を返してほしいくらいだわ。ちょっと感動すらしたんだぞこいつ。
「あとポケモンの青バージョン返してもらってねぇし」
「しょうも………なくねぇな」
「俺のプラモデル壊したり漫画又貸ししたり売ったり」
「それは………流石に嫌だなぁ………」
「それであいつのエロ本借りたとき、気に入ったページだけ破いて保存させてもらったり、他の高校の女子に告白しようとしたとき茶々入れて邪魔したり、あいつのお母さん呼び捨てにする嫌がらせしてたら、最終的に殴り合いになっちまって………」
「目糞鼻糞を体現してる奴ら初めて会ったわ。仲直りしとけ」
「けど、あいつもひどいんだぜ? 勝手に人の弁当つまみぐいしたり。まぁ俺もあいつの自転車のハンドル勝手に鬼ハンに改造したから偉そうなこと言えねぇけどよ」
「俺とお前って同世代だよな? なに? 男子校ってそんなしょうもない日常送ってたのか?」
「でも、あいつが俺のおやつ用のプリンを一口って言ったのに三分の一食べたとき? あのときは流石にプッチンきたね」
「だからおかしいだろ! 小学生!?」
「いやぁ、ついな? プッチンプリンだけに。フフッ」
「上手くねぇよ! 海外か異世界の高校の話にしか聞こえねぇよ!」
「は!? それはつまり………まさか俺は別のマルチバースからいつの間にかやってきてそれで元の世界の俺の記憶とこのバースでの俺の記憶が混在している可能性が!? そして元のバースでは俺だけを一途に慕うパイパンで処女でドスケベで巨乳な彼女(小田先輩)が可能性が微レ存!? だとしたら俺がモテないでいる不可思議な現象にも説明が――」
「ねぇよ」
「あるがとな瞬! 希望持てたわ!」
「異世界転移か別の世界線に移動するなんて希望じゃねぇ。妄想だ」
「けど、だとしたらこのバースでの俺が元のバースに移動していて俺の彼女(小田先輩)とお突き合いしてるってことじゃねぇか!」
「なんでそうなる!?」
「くそぉぉぉ………許さんぞ俺めええええ! 俺の彼女(小田先輩)を寝取りやがってええええ!」
「お前がお前の彼女を寝取るってなんだ!? 自分自身をこれだけ恨めるなんてお前だけだぞ!」
「でも、ちょっと興奮する………」
「この変態め!」
しかもなに何気に小田先輩彼女にしてんだ。殺すぞ。
俺が殺さなくても他の男子生徒達にリンチされるぞ。
「けど、先輩が俺と俺と三人で付き合って突き合うってことも………ふひひ」
「お前先輩にブチ殺されんぞ!?」
あの先輩が複数でそういうことをやるなんて、とんでもねぇ糞ビッチに成り下がってんじゃねぇか。先輩がそんなことするわけねぇだろ。こいつは本当に先輩が好きなのか?
仮に好きな人がそんな貞操観念の低い尻軽でいいのか?
………………………………………………悪くないけど。
「じゃあお前はどうなんだよ! 先輩としたくないのか!? あの人に虐められたいとおもってねぇのか!?」
「ねぇよ! …………ねぇよ!?」
「なんで二回言ったし! 先輩は俺と俺のもんだぞ!」
「なんでもうマルチバースが実在してて俺が先輩に虐められたがってるって前提なんだ!」
「先輩の鞭とハイヒールと前立腺パンチと蛇口式は俺のもんだ!」
「ガキ大将もドン引きのジャイアリズムで変態プレイ望んでんじゃねぇ! 蛇口式ってなんだ! 前立腺パンチってなんだ! いややめろ説明しなくていい! あの人がそんなことするわけねぇだろ! 第一先輩は―――」
「? なんだよ」
まずい。つい興奮して先輩がれみに恋愛感情を抱いてるって口ばしるところだった。デリケートな内容すぎる。
「第一、先輩は皆の先輩、皆のお姉ちゃんだろうが!」
「つまり全員で先輩を共有してヤリたいと―――」
「だからなんでそうなる! ねぇよ!! ………………………………ねぇよ!!!」
ちょっとそそるけど。
なんとかごまかすことに成功したものの、落ち着いて食事も進んでいない。
「なんだよぉ~~。恥ずかしがんなよぉ~~」
「キモイわ! やめろ!」
男って、こういうもんだ。
そんな馬鹿話に華を咲かせて、騒がしい食堂のざわめきの中の一つとして雑踏に紛れていく。




