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元義妹の親友、なんだかんだでアドバイスくれる。そして危機を迎える。

まりあちゃんとの買い物を無理やり終えた俺は、一人アパートに戻ってきた。


 体の疲労感よりも、内側からげっそりと減り続ける気力の消失が辛い。ベッドに腰掛けて、ぼ~~っと天井を見上げると、携帯が震えた。


【角刈りにしてくれって美容室に頼んだら何故かGIカットになった件】


 写真付きのメッセージが届いた。泣きそうになりながら米兵みたいな髪型になった健だった。


【似合ってるぜ】

【本当?】

【じゃあ先輩に告白したら成功する?】

【生きろ】


 とりあえずそう返信して携帯を枕の下に埋めた。


 そんなどうでもいいことよりも、俺の頭の中にあることは――。


「あ、ファンタもらっていいスか?」

「どうぞ? ご自由に」 


 そう。れみと先輩とのやりとりで気づいた、母親への気持ちだ。どちらかといえば、概ね先輩が指摘していたとおり。ざっくばらんにいえば義務感、建前。


 関係を改善したいというのは、本音だ。もう何年も経って、怒りは薄れている。許していいんじゃないかって。


 でも――


「なに悩んでるんスか?」


 ベッドにまりあちゃんが腰を下ろした。スプリングが二人分の重みで沈み、振動で 体が揺れて、


「って待てやああああああああああああああああああああああああああ!!」

「うわ! 急に避けぶんじゃないスよ! 零れそうになったじゃないスか!」

「なに人の部屋で当たり前に入ってきてんだああ! いつ入った!? それ俺のファンタ! それ俺のおつまみ! そして君が座ってんの俺のベッド!」

「うわ、小っっさ。彼女ができて些細なことで理不尽にキレたら嫌われるッスよ?」

「些細じゃないし理不尽じゃない! 不法侵入! 窃盗!」

「あたしきちんとお邪魔しますて言ったっス。聞こえないで上の空だったあんたが悪いっス」

「例えれみにやっても誰にやっても同じように怒るよ! というかなんでここにいるんだ! 買い物終わったろ!?」

「ええ。買い物は終わったっス。でもまだ気になることがあったんで」

「なんだよ!?」

「れみのことっス。あんたれみの両親に会おうとしてるんスよね?」

「そうだよ! だからそのことについて考えたいんだよ!」


 これでいいだろ、といわんばかりに立ち上がって窓のほうへ距離をとった。


「お義母さん、いい人っスよ。料理も上手だしにこにこ朗らかで。れみにも優しいし仲良しだし」

「聞いたよ」

「あんたとのこと、反省してるんじゃないっスか? 会いたいっておもってるんじゃないっスか?」

「かもしれないな」

「れみもそんなお義母さんをわかった上で一緒に暮らしてるんスよ?」

「そうだろうぜ」

「だったらあんたはなにをこわがってるっスか?」

「はぁ? こわがる?」

「そうっスよ。こわがってるっス。先輩やれみがどうあんたを見てるかわからないけど、アタシからはそう見えるっス」

「・・・・・・・・・」


 この子は。本当に遠慮がない。おもわず握り拳を作りそうになってしまうくらい。けど、だからだろうか。不思議と形容できない自分の気持ち。


 喫茶店で二人の会話を聞いたときから、嫌。予行演習を開始した時期から理由を見つけられていなかった漠然とした不安の正体が、なにからくるのかわかった。


「俺は・・・・・・・・・もしかしたら許せないんじゃないかっておもってる」


 例えれみと仲の良い家族であっても。

 例え母親が悔いていたとしても。

 謝罪の言葉を口にしてきても。


 俺は変われていなかったら。許せないという気持ちを消えなかったら?


 きっと認めてもらっても、会っても、演習をしていても意味はない。


 「君は昔の同級生を許そうって簡単におもえるのか? 里見って子が君に頭を下げてきたとしたら」

「・・・・・・・・・そのときになってみないとしんないっしょ。そんなの」


 そうだ。そのときになってみないとわからない。

 

 許せるかもしれない。許せないかもしれない。


「ふぅ~~~ん。じゃあ許さないままでいいんじゃないスか? ある程度割りきって。だってあんたとお義母さんは今家族じゃないんしょ? れみとの関係を認めてもらうだけなら、お義母さんと日頃会う必要もないんだし」

「れみがそんなこと望んでるとおもうか?」


 

「あんたは良いお兄ちゃんでいたいんスね。れみにとって。涙が出そうっス」

「そんなんじゃない」

「だからあたしはあんたが嫌いっス」

「なんでだよ!?」


 脈絡のない嫌悪感バリバリの台詞は、今言うべきことか?


 けど、まりあちゃんは真剣で、ふざけている様子は微塵もない。


「だってあんたが今言ったこと、れみに言ってないっしょ?」

「それは・・・・・・・・・」

「大切にしている相手には教えないで赤の他人に教えている時点で、矛盾しているっス。あんたはれみのことを困らせたくないから一人で悩んでいるだけっスけど、そんなの見栄っスよ。兄貴だかなんだか知らないけど。昔れみを傷つけたって自覚はあって、だからこそれみの期待に応えたいって気持ちはあるのかもしれないけど。だったらなんで言わないんスか?」

「・・・・・・・・・」

「逆に言うべきでしょ。れみ自身にも関係することじゃないスか。あんたは大切にしているのかもしれけど、ただの自己満スよ。格好つけ。本音すら言い合えないで遠慮している二人が、上手くいくわけないっス」

「・・・・・・・・・」

「だから、嫌いなんスよ」


 もう一度。今度は吐き捨てるように。忌々しそうに。


 だからこそ、この子が言っているのは真実なんだと真正面から受け止めることができた。普通これだけ嫌われたら落ちこむものだけど、なんにも感情の揺るぎはない。


「これだけは言っておくっスけど。もう一度れみを泣かせたり傷つけたら、今度こそあたしはあんたを許せないっス。れみがなんと言おうと嫌われようと。絶対に。それこそ二度と会わせられないようにあたしは手段を選ばないっス」

「君は―――」


 どうしたらいい? そう聞こうとしてしまった。


「あ? なんスか?」

 

 けどこの子に聞いてもきっと意味はない。


 適切なアドバイスをもらえそうにないって予想じゃなくって、引け目に感じてしまうから。

 

「うじうじ悩んだり練習してる暇あったら、さっさと会っちまえばいいのに。余計に時間かけるからビビり度合いが無駄に強くなるんスよ。ほんとに・・・・・・れみはあんたのどこがいいんだか」


 チーズを無造作に噛みちぎって、憤然としたままで食べ進めていたら、携帯が連続で鳴り続けた。


「offにしたらどうっスか?」


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのか。別に俺のせいだとばかりのイライラしたかんじのまりあちゃんに、すごすごと枕の下から携帯を取り出した。


 操作してる途中、偶然健から電話がかかってきたもんだからそのまま通話ボタンを押してしまった。


「うえ、うえ・・・・・・・・・瞬・・・・・・・・・俺・・・・・・俺・・・・・・擦れ違う人に笑われて・・・・・・大学の友達にも笑われて・・・・・・・・・」

「おう?」

「試しに先輩の反応はどうかなって写メ送ったら【遂にとち狂ったの? 草生える】って・・・・・・・・・」

「おう・・・・・・」


 まりあちゃんはなにやってるんだとばかりに不満げに睨んでくるもんだから、板挟みになったような心境で健の嘆きを聞き続ける。


「うう・・・・・・だからこれからお前の家に行くわ・・・・・・」

「おう・・・・・・・・・おう?」

「つぅかもうちょっとでそっち着く・・・・・・・・・だから慰めて・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・」


  な  ん  で  す  と  ?

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