元義妹の親友とデートする。そして減点される。
休日とあってか、駅前は人でごった返していた。
わかりやすい目印の前で待ち合わせしていると、少し集合時間から遅れてまりあちゃんが現れた。
「お待たせっス」
「うん………じゃあ早速行くか」
早く終わらせたい気分の俺は、そのまままりあちゃんを伴って歩きだした。
「減点マイナス三点っス」
「?」
まりあちゃんはなにかメモ帳を取りだし、すらすらと記入していった。
「ねぇ、減点ってなに?」
「今日あんたと一緒に過ごす間に不満におもったところを点数にして引いてるだけっスよ?」
「ちょっと待ってなにそれ?」
なんのシステム?
「はぁ、めんどくさいっスね。いいスか? あんたはあたしの時間をわざわざ使わせて自分の都合のいいようにしようとしてるんスよ? 本来だったらあたしになんの意味もないのに」
いや、今日の買い物は君が誘ってきたよ?
「点数形式にして最終的に喋るか喋らないか決めたほうが判断しやすいっしょ? あたしがれみにやっぱり教えたほうがいいとか。いやこんな風にしてくれてるんだかられみには黙っておいてあげようっていう気分にさせればいいだけっス」
………つまり俺は今日一日この子にへりくだって全力でエスコートして気分よくさせなければいけないってこと?
なにそれ理不尽極まりない。
「せめて事前に教えてくれよ。報連相は人間の基本だし」
「事前に教えといたら意味ないっス。こういうのは普段からの人格と生活に影響が出るんスから」
「いや、でも」
「マイナス百点になったらその時点でれみに教えるっス」
あ、もう拒否権すらないんだな。
「ちなみに今マイナス五十点っス」
「もう半分切ってんじゃねえかあああ! さっきマイナス三点だったのに点数おかしいだろ!?」
「採点は合コンが終わった時点でスタートしてるんで」
「理不尽を通り越してもはや暴君! 今知った! だからやり直しを請求する!」
「却下っス」
「せめてマイナスからスタートさせてくれ」
「ツッコミがうるさいんでマイナス一点」
「ぎゃあああああ!」
くそ、このまま抗議ををしているとそれだけであっという間にマイナス百点に到達してしまいそうじゃないか。
にひひ、と悪戯っぽく微笑みメモ帳をこれ見よがしにひらひらさせているまりあちゃんが、悪魔に見えて仕方がない。
憎たらしい。
けど逆らえない。
「わかったよ。じゃあそれでいい。で? 今日どこ行くの?」
肩をがっくり落として、なんとか諦めた。
「マイナス一点」
「なんで!? ただ当然のこと聞いただけでしょ!?」
「普通こういうときって男が予定たてておくもんしょ? 女の子を楽しませようとする意欲に欠けてるっス。はい論破」
「どや顔してるけど、君論破の意味わかってる!? 議論にすらなってないよ!」
「あ~~、もううるさいっスね~~」
く、くそ………。このままだとまた減点されてしまう。でも今日はまりあちゃんの買い物に付き合うだけのつもりだったからプランなんてノーだ。そしてこのままどこに行くか決められないと俺とれみの関係もノーになってしまう。
「はぁ、しょうがないんであたしがいつもいく店にまずいくっス」
「うん、それでお願いしますマリアちゃん」
「マイナス五点」
「なんで!?」
「名前呼びが不快って言ったっスよね?」
「じゃあ北条、いや。えええええい!? セカンド・リトル・シスターで!」
「なんスかその呼び名!?」
またペンを走らせようとして、慌てたままの俺に当然のツッコミがさく裂した。
でも、だってれみの友達だし。年下でれみと同じ年齢っていうことかられみのイメージに引っ張られてリトル・シスター(妹)って口から出ちゃった。
「セカンドってところが引っ掛かるんスけど?!」
「俺にとってのリトル・シスターはれみだけだから。そこは譲れない」
「く、この………あるかなしかの兄っぽさをこんなところで発揮しやがって。堂々と言い切るところがムカつく……」
「じゃあリトル・フレンド?」
「あんたと友達なんて死んでも嫌っス。第一なんでかたくなに英語なんスか。せめてシスターズ・フレンズっスよ。じゃあもういいっスそれで」
「え、嘘いいの?」
「ええ。めんどうっス。セカンドでもサードでもファイナルでもどうぞお好きに。勝手に煩悩のままに妹作ってれみに嫉妬されればいいっス」
百八人妹みたいな子となんて出会えるわけがないし、作るつもりはない。
「っていうかれみは嫉妬なんてしないだろ。仮にそんなことになっても」
「………マイナス十点」
「なんで!?」
「あたしをムカつかせてれみの乙女心を踏みにじったからっス」
どういうこと? 意味がわからない。れみはだらしがないとか不健全とか目くじらたてて怒るけど嫉妬なんて想像できない。
妹である自分がいるのに他の子を妹扱いしたり妹呼びしてるのが嫌ってことか?
たしかにれみには嫌われていないっていう自負は多少あるけど、それでも嫉妬なんていう感情は、しっかりとした性格のれみとは結びつかない。
『兄さん、私がいるのにどうして他の子を妹と呼んでいるんですか? むぅ……』
『そんなに妹扱いしたいなら私にだけしてください。兄さんの馬鹿………』
『兄さんの妹は私だけです………。他の子なんてダメです……」
うん、イメージしてみたけど、やっぱりあり得ない。
小さい頃のれみだったらまだありそうだけど、今の成長したれみはしないだろう。違和感しかない。どっちかというとデレデレしているとかだらしのないとか叱っている姿のほうがしっくりくる。
可愛くてときめいたけど。
「だからあんたは………れみはこんな奴のどこがいいんだか………」
「というかさっきから点数の大きさに差がありすぎない?!」
「あたしの匙加減だから当然っス」
くそ、油断できない。
俺は今日を甘く見すぎていたのかもしれない。
全力でこの子を満足させなければいけないしなにがこの子の琴線に触れるか未知数だ。すべてのことに気を払い、細心の配慮を心掛けなければ。
「なんで車道側歩かないんスか? 減点一」
くそ、まだ駅前からも出れてないってのに!




