元義妹の親友を助ける。だけど罵倒される。
「あれ物まねって呼べる?」
「微妙だったよねー」
「マジ盛り下がったわ――」
合コンは、終わった。
地獄の時間が過ぎてメンタルがやられて致命傷を負った程度で済ませることができた。
「ドンマイ、瞬」
「その、俺は似てるとおもったぜ?」
「そうそう。ただもうちょっと練習したほうがいいぜ?」
うるせぇ、今の俺に優しくするな。嬉しくて涙がとまらなくなってるじゃねぇか……!
なにはともあれ、無事まりあちゃんの提示してきた条件はクリアできたのだからそれでいい。まりあちゃんはお友達と一緒に帰っていった。
もう帰って寝たい。寝て忘れたい。
「瞬、これから飲み行こうぜ。残念会だ残念会」
「いや、またにするよ」
仲間達の誘いを断り、駅にむかっている途中、券売機付近で揉めている人達に遭遇してしまった。
「いやぁ、だからそれはそっちが悪かったっスよ?」
「ふざけんな! 元はといえばあんたが誰彼構わず調子合せてたからでしょ!?」
普段ならなんとなく横目で見つつ、スルーしてしまうところだけど、揉めている一方に見覚えがあって二度見してしまった。
「あんたのせいでこっちの人生台無しなんだから!」
「あ~~、そっスか。まぁでも何事も人生経験っスよ? 今後の糧にしてくださいっス」
怒り調子でキィキィと怒鳴っている子と正反対、へらへらと笑いながら穏やかに相手をしているのは、見まごうことなくまりあちゃんだった。
「な、なぁまりあちゃん?」
「あれ? あんたなんでここに?」
雰囲気は最悪だったけど、流石に見過ごせなかったので二人に間に入る形になってしまった。
「あ!? 誰よあんた! 北条院のなんなわけ!?」
関係? 関係か。難しいな。この子は感情的になりすぎているから、下手に刺激すると余計事態が悪化するだろう。
元義妹の友達なんてややこしい間柄だし、俺はこの子に蛇笏のごとく嫌われている。それを一言で表すなら。
「友達の知り合いっス」
先を越された。
「つまり他人じゃない! あんたには関係ないんだから口出しすんなよ!」
「あんたっていっつもそうだね! 一人じゃなんにもできない! ただ愛想笑いでニコニコして適当に合わせて! あのときもそれで偶々助けてもらったってだけじゃん! そうやって尻拭いしてもらって馬鹿じゃないの!?」
………なんだかとてつもなく複雑で女子さながらのドロドロとした事情の匂いがする。小田先輩の悪口を言ってた後輩が普段先輩と仲良くしてる光景を見た時と同じ匂いだ。
「あの竹田れみって奴も! あいつもあんたもいなけりゃ私だってこんなことになってなかったんだよ! 全部てめぇらのせいだ!」
………れみの知り合いか? この子。
「一生許さねぇからな! てめぇも竹田も!」
「ちょっと、流石にそれは――」
「れみがなんだって?」
まりあちゃんを遮って、俺は尋ねた。
「あ? んだよてめぇ! 竹田のことも知ってんのか!?」
「そんなことは今どうでもいい」
正直、困っていた。まりあちゃんとこの子の関係性はわからない。下手に口出しすると抉れるし、どうすれば正解なのか見当もつかなかったからだ。
けど、れみにも関係するっていうんなら俺は黙っていられない。
経緯は知らないけど、この子はまりあちゃんのことを恨んでいる。相当険悪になる出来事が過去にあったってことだ。そしてれみもそれに関わっているんだから。
まりあちゃんにここまで酷いんだから、れみにまで同じことをされる危険だってある。見逃すわけにはいかない。
「チィ………ウザぇな。いきなりなんだよ。第一てめぇとこいつらとどんな関係――」
「どうでもいい。そんなことは」
「ああ?」
「君と俺は無関係だ。だけど、君以外の人と無関係ってわけじゃない。だから口出しさせてもらう」
女の子は、少し威勢の良さが失せた。たじろいで、悔しさで顔をくしゃくしゃに歪めながら、けど睨みつけてくることだけはやめない。
「くそ、キメェンだよおっさん………」
女の子は吐き捨てるようにすると、駅を出ていった。遠巻きで珍しげにしていた人達の気配もなくなって、駅の騒がしさが戻ってくる。
「なにやってんスか………まぁ、でも一応礼は言っておくっスけど」
ブスっとした様子のまりあちゃんは
「あの子、あんたの顔覚えたかもしれないっスよ」
「そんなことはどうでもいいよ。それより――」
「大丈夫だった?」
「は?」
「いや、だからあの子に色々言われてたことだけど………。ぎゃあぎゃあ言われてたからこわかったんじゃないかとか嫌だったんじゃないか、とか」
「は?」
まりあちゃんは心底こいつなに言ってんだ? という不思議そうな目で見あげてくる。こっちが不思議になってしまう。なにもおかしくないとおもうんだけど。
「第一声がそっちっスか!?」
「え?」
「いや、逆にこっちが驚きっスわ! なんスか!? こっちが色々話す順番とか流れとかどうするか考えてるってのに! なにぶち壊すことしてんスか!? 真っ先に聞かなきゃいけないことあるんじゃないんスか!?」
え? え? と、怒涛のまりあちゃんの詰問、そして距離の詰め方に一歩後ずさりしてしまう。
「あ、それともう一つ」
「そうっス! それっス!」
「大学生ってJKくらいの子からしたらおっさんなの?」
「そっちスか!? ふざけてんスか!? 第二の聞きたいことがそれ!? 一番の重要なこと先にあいつ言ってたでしょ! ぶっこ抜くっスよ!」
ひゅっと、自然と内また気味になってしまった。
「ああ、もう! なんであんたは! なんであたしを心配してんスか! あんなんなんでもないんスよ! 適当に受け流そうとしてたってのに! あ~~~! もう気に入らないっス! そういうところが気に入らないんス!」
「あ~~~、もう」「そうじゃないでしょ」「なんでこんな奴をれみは」「あたしもあたしっス」とかブツブツ呟いて、さっきの女の子と似た勢いで迫らんとしてくる。
「………え~~っと。つまりまりあちゃんは大丈夫ってこと?」
「そういうことっスよ! これで満足っスか!? どうもありがとうございます! けっ! それとまりあちゃんて呼ぶな! れみのこと傷物にした鬼畜変態野郎のくせに! 優しく振舞おうとすんな!」
「ちょ、声押さえて!」
「それともそうやって機嫌とってあたしにまでぶっかけるつもりっスか!? ちょうど駅っスからねぇ!」
「お願いだから声押さえて! プリーズ!」
また俺達を物珍し気に見る人達の圧(視線)が強まってきてる。下手すると痴話げんかとか変態のレッテルを貼られてしまう。
「だってれみがあんたにぶっかけられたって言ってたんスから! それも外で! 生温かいものを!」
「あ………」
「ぶっかけられたって! 生温かいものを! 外で!」
それは…………身に覚えがあるけどちょっと事情があるというか。けど誤解というか。間違ってないんだけど言い方が悪いというか。
うん、ぶっかけちゃったよ? 生温かいゲロを。外で。
でもこの子の言い方だと別のなにかいかがわしいなにかを感じる言い方にしかおもえない。
「とにかく! もう良いっス!」
「あ、待って! まだ聞きたいことが! 最後に教えてくれ! あの子とれみと君と昔なにがあったんだ!?」
「だ! か! ら! 遅いんスよ! それを! 真っ先にそれ聞くべきでしょあんた! なに最初あたしを心配してんスか! 変態だからっスか!?」
「俺は変態じゃないし! いやそこじゃない!」
「うっせぇぶっかけ大学生!! 本っっっ当にれみのこと考えてないんスから! そういうところがむかつくっス!」
「いや、でも――」
「しつこいとれみにばらすっスよ!?」
立ち止まって両手で口を塞いだちょっとの隙に、まりあちゃんは改札口へと走っていく。
「どっちみちまだ条件は終わっていないんスから! 今度の休み買い物に付き合わせるつもりだったんスからそのときに話します! 話せばいいんスよねこんちくしょう! さようなら変態の残念三流物まねすけこましやろう! 一生合コンでダダすべりしてぶっかけてろばああぁ~っか!」
まりあちゃんは改札口を通って、最後にあっかんべぇをしながら去っていった。
後にはぽつねんとした俺だけが取り残された。
周囲からの肌を貫通させるほどの鋭い視線、それは今どうでもいい。
色々疑問は尽きないけど、はっきりしてるのは一つだけ。
「まだ条件のやつ終わってなかったのか………」
それだけだった。




