元義妹、嫉妬す。そして親友は面白がる。
「あ、パイセンエロ本とかないんスか?」
「ウチには一切そういうのはない。全部電子書籍としてパソコンに保存してある」
「ほほぉ~。ではパソコンはどちらに?」
「使わせねぇよ流石に!?」
ちぇ、と唇を突きだしてベッドに腰掛けるまりあちゃん。
躊躇なくそっち座るのか・・・・・・。とにかく来訪の目的を知っているから勉強の準備を促す。鞄から荷物を取り出しているまりあちゃんを尻目に、れみをチラ見する。
まだ落ち込んでいる。
「俺のとこ来たりするだけじゃなくて、友達とも一緒にいなきゃ。俺のことは後回しにしていいし」
「はぁ」
「まりあちゃんだって、この前れみが付き合い悪くなったってさみしがってたし。そういうの犠牲にしちゃあ、な?」
「そうですね」
「それに、こんなことくらいしか恩返しできないし」
「・・・・・・・・・恩返しって? なんですか?」
今度はガラッと変わる。暗い雰囲気と表情からいきなり怒っているって感情に染まっている。
「れみ、俺のところ来てくれてるだろ。いろいろ助けてくれて、ありがたいんだよ」
「・・・・・・・・・」
「今はもう自分でもちゃんとしようって掃除もするようになったし。れみのおかげだって。だからこんな形だけど恩返しできないかな~って」
「・・・・・・・・・私が兄さんを矯正しているのが恩だと?」
説明すればするほど怒りが強くなっていく。こっちがたじたじになるほどの迫力。今のれみを例えるなら背後からオーラが立ち上り、ゴゴゴゴゴゴって擬音をまとっている。
「つまり兄さんは私みたいな年下の女の子に矯正されて喜びをかんじる変態さんなんですね」
「言い方もそうだけど最後の変態さんって悪意しかないよな!?」
れみはぷいっと顔を背けながら机に向かう。なんだかれみは機嫌が悪い。原因は不明だけど、下手に刺激したら爆発する。距離をとってまりあちゃんの隣に腰掛ける。
「・・・・・・・・・どうしてそっちに座るんですか・・・・・・・・・・!」
けど、そんな気遣いも今のれみの火には油を注ぐ結果でしかないようだ。明らかに怒りの度合いが強くなってる。
「れみ、嫉妬っスか? ん? 嫉妬っスか?」
「違います。兄さんは女子高生とみると誰彼構わず発情するのでまりあを心配しているんです」
「え!?」
「ちょ、お前!」
「いやいや、冗談っスよね。それくらいわかるっスよ」
「今日制服じゃなくてよかったですね。まりあ」
「え!? どういうこと!?」
「不穏なワードを意味深に言うな!」
「私とこの前電話してたとき、そういえばまりあちゃんってもう来ないの? ってしきりに聞いてますし」
「ええ・・・・・・・パイセン、いえ上杉さん年下だったら誰でもいいんスか?」
「呼び直さないで!」
「兄さん。いえ性欲の権化さんは私と会うとき必ず下着と制服を指定されます」
「不名誉な呼び方やめろ!」
「それと大学の小田先輩っているじゃないですか」
「まさかあの人も毒牙に!?」
「先輩を唐突に巻き込むな!」
「あの人と一緒にいると、この人眼光が鋭くなります。特に胸のあたりをチラ見しています」
「あ~。そういうのって周りと当人には丸わかりっスよね~。最低っス」
「あるある話と絡めて真実味持たせるなぁ! 頼むからもう勉強してくれぇ!」
さすがに疲れてしまった。とりあえず勉強に入るけど、二人にあらぬ疑惑を抱かせないように等分に距離をとる。その甲斐あってか二人は捗っている。れみはスラスラ解いていってるし。
「性欲の権化の上杉さん。ここ教えてもらえるっスか?」
「どれどれ・・・・・・ってナチュラルに呼ぶから答えちまったじゃないか」
「へへ」
「次からちゃんと呼ぶように。それでどこだっけ?」
まりあちゃんが教科書と一緒に近くに。別の紙を用いて解き方を教える。「ふんふん」「ほお~」「成程っス」と感心しながらうんうんと頷くけど、少し近いからか髪の毛の匂いがふわりと漂って鼻腔を刺激する。
れみとは違う柑橘系だけど、香水か。それともシャンプーだろうか。判別できない。
ぺキ。
腕が不意に痛くなって反射的にびくつく。どうやられみのシャー芯が折れてしまったようだ。
「じゃあ次これわかります?」
「ああ、これは――」
ペキ。
シャー芯がまた飛んできて当たった。今度は顔に。れみは筆圧が強いんだろうか。
「じゃあこっちは?」
「まずは自分で解く努力しない?」
ペキ。ペキ。ペキ。
「ええ~。だってれみと違って私頭よくないっスから~」
「最初から諦めて投げだしてたら成長しないよ。努力の姿勢はみせないと」
ペキペキペキペキペキペキペキペキ。
「シャー芯大事にしない!?」
もうシャー芯の嵐かってくらい飛んでくる。わざとかって一瞬疑ったけど、れみがこんな嫌がらせする理由も必要もない。
「麦茶持ってきます。ロリ・ペド・ウェストハイマー・田中さん」
「急に懐かしいやつ持ち出すなおい! しかもダメな方向にパワーアップしてるし!」
「いやぁ、愛されてるっスねぇ」
台所のほうへパタパタと行ってしまうれみを目で追いかけながら、ニヤニヤとこちらを窺っている。この反応、なんでれみの反応がおかしいか知っている?
「愛されてたらあんな態度とらないだろ?」
「いやいやいや。きっと嫉妬してるんスよ。私が先輩に教えてもらってるの間近で。あんなれみ初めてだし。それってパイセンのこと愛してるからじゃないっスか?」
残念だけど、的外れな見解に苦笑い。それはありえない。本来恋人同士だったら通用するだろう。けど、俺たちが恋人だっていうのは嘘なんだ。
れみが俺との関係を隠したいから咄嗟についてしまった。昔義理の兄妹だったっていう関係でしかない。よくよく考えれば最初から俺たちの関係を隠したいって事は、それだけ嫌なことだったからという証。最近ではそう自覚せざるをえない。
けど、もし仮にれみが嫉妬しているんだとしたら。俺を愛しているんだとしたら。
いや、やっぱりありえない。というか絶対ありえない。ヒャクパーセントありえない。
元義理の兄を、昔ひどい別れ方をした相手を異性として愛するはずがない。
誰だってそうする。俺だってそうする。
れみはしっかりした考えで、異性との距離感についてバグっていたから俺とまりあちゃんのやりとりが不純とか破廉恥とか、そんな風に受取った。それだけだ。
うん、そのほうが自然だ。
「れみって学校だとどんな風なんだ?」
「皆から信頼されてるっスよ。勉強も運動もできるし。欠点もないし誰に対しても優しく接するし。先輩後輩問わずいつも人気者っス」
「へぇ。それはすごいな」
「先生が授業中間違えたこととか指摘するし。誰かが問題おこしたり喧嘩したら相手がどんな人でも止めに入ったり助けたり。まぁスーパーマンってかんじっス」
「スーパーウーマンじゃない? そこは」
「あと家族とも仲がよくて、お母さんともよく出掛けてるっス。料理教えてもらったとか」
「・・・・・・・・・へぇ」
「私もよく家に遊びに行くけど、優しいお母さんっスよ。よく悩み相談したり」
「・・・・・・そうか」
大丈夫だろうか。隠せているだろうか。あの人の話題になると、どうしても過剰に反応せざるを得ない。額のあたりに力が加わるのは血管が浮き出る前兆だろうか。頬が硬いのは愛想笑いを心が拒んでいる証拠か。
けど、れみとあの人が仲良く過ごせていればいい。そう言い聞かせれば、わだかまりはほぐれていく。
「あ、そうだ。ストラップ」
「ん?」
「あれ、れみが携帯に付けてるやつ。あれパイセンがプレゼントしたんスよね?」
一気にあの人に対する感情の一切が抜けていく。予想していなかった話題に、頭がついていかず、カッカしていた熱がスーッ、と冷めていく。
「それどうしたのかって聞いたことあるんス。そうしたら大切な人にもらった、プレゼントされたって照れながら教えてくれたんで。パイセンかな~って。女子高生が付けるようなタイプのものじゃないし。れみもそういうの全然付けないし」
「ん? んん~~~?」
もしかして、こないだガシャガシャで勘違いしてあげちゃったやつかな?
キモいとか好みじゃないって言ってたやつ?
だとしたら、なんだかんだで大切にしてくれてるのか。けど、大切な人からもらったっていろいろな捉え方ができるぞ。
まぁ、恋人だと説明しているまりあちゃんには、俺からもらった物を説明するには的確か。
「男女交際とかまったく興味なさそうだったのに。だから驚いたんスよ。恋する乙女ってかんじだったんで。だからパイセンと付き合ってるところみて、本当に驚いたっス。感情的になってて。普段の学校じゃない姿と表情なんで」
それは、うん。たしかにれみは俺と一緒にいるとおかしくなってる。幻聴みたいなこと聞こえてるみたいだし。俺が女の人と近いとヤバいし。
あれかな。俺への矯正が負担になってるのかな。それとも男女の間柄についてお固い価値観持ってるから、テンパっちゃうのかな。それともストレスかな。
「あれ? でもそのときってパイセンとれみ・・・・・・ん? あれ?」
「なにお喋りしているんですか。変態発情犬さん」
「もう俺人間でもなくなってる・・・・・・?」
「早く勉強教えてください。それとも女子高生とお話していたいんですか?」
気を取り直して、また二人の元へと戻っていく。考えを改めたからか、さっきよりも余裕を持って二人に接せられる。




