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元義妹、荒ぶる。

 大学を終えたあと、健を伴ってアパートを目指す。今日はれみが来る日じゃないから、スーパーで買い物をしてからだ。


 実験室でのことで決意が固まったからか、買い物途中でもれみに矯正されたことが発揮されている。値段とか安さ、それから作れるレパートリー。献立を考えながら。


 健にツッコまれながら慎重に吟味していたらいつもよりだいぶ遅くなってしまった。


 部屋に着いてから、布団と洗濯物を取り込んでおく。教わった畳み方でしまって料理しようとしたら健が目を丸くしていた。ゲームしている手も止まっている。


「なんだよ」

「お前、変わったな。そんなきっちりしてなかったじゃねぇか」

「れみのおかげかな」

「彼女自慢かよ殺すぞこのリア充」


 急に嫉妬と殺意に満ちた形相に。人の気も知らないで勝手なやつめ。居間から移動しようとすると、健がズボンを掴んできた。


「なんだよ」

「もがせろ」


 は?


「お前の男をもがせろ。もしくは袋のほうを去勢させろ。そうすればお前はもうれみちゃんと終わりだ」

「なにほざいてんだお前は」


 健がどんな精神状態でどんな感情なのかもう判別したくない。ただ本気でズボンを脱がせようとしてきてるのはたしかだ。


 乱暴に揺さぶって引きずり落とそうとして、抵抗しなければいけなくなる。というかこいつちょっと酒飲んでる。


「ちょ、お前やめろ! まず空き缶ちゃんと水洗いして潰しておけ!」

「うるせぇええええ!! ついこの間まで仲間だったのに運がよかっただけで一抜けして幸せになりやがってえええええええ!! しかも無意識的に彼女いますだから幸せですアピールしてきてマウントとりやがってええええええええ!!」

「歪んだ解釈しすぎだろ! そんなつもりじゃなかったわ!」

「無自覚系かよおおおおおおお!! どこの主人公だあああああああ!!」

「なんの話をしてんだ!」


 健は俺の膝裏ごと掴んで押し倒した。そのまま二人でドタバタと揉める。プロレスさながらだけど、どこかおふざけが加わっている。友達で遠慮がない相手同士でできる、やり慣れたいつものやりとりだけど相手が酔っているから力が強くて面白さよりもお互い真剣味がある。


「いい加減にしろ!」

「エンッッッ!!」


 張り手をおもいきり頬にぶち込んで少し吹き飛んだ。息を整えながら休むけど、とんでもない状態だ。抵抗しつつも、完全に防ぎきれなかったから俺はズボン一丁だけじゃなくて上半身裸になっているし。健なんて半ケツだし。なんで半裸の男二人で室内でいるんだろう。

 

 インターフォンで、来客の存在に気づく。のぞき穴から見るとれみだった。


「どうして今日来たんだ? 予定になかっただろ?」

「抜き打ちです。早く入れてください」

「ああ、ちょっと待っててくれ。今服着てくるから」

「え? 兄さん今裸なんですか? もしかしてお風呂にはいってましたか? すいません」

「いや、違くて。実は今人が来てるんだよ大学の」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・・・・・・?」

「それで、そいつと飯食おうとおもってたんだけどいろいろあって。そいつも今半裸なんだ。とにかく――」

「どういうことですか?」


 声の質が変わった。おもわず固まってしまう。足が縫いつけられたように床から動かない。底冷えしてしまう恐怖がれみにはあった。


「どうして兄さんも裸で一緒にいる人も半裸なんですか? その人とどういう関係なんですか?」

「い、いや今それどころじゃなくて。とりあえず服着させてくれ」

「どうしたら二人で裸になれるんですか? 室内でなにをしていたんですか?」

「い、いや――」


 ちゃんと説明すればわかってくれる。なのに舌がもつれて上手くできない。


「と、とりあえずちょっと待っててくれ! 服着てくるから!」


 れみを待たせて、居間に戻る。けど急がなきゃいけないって焦っていたからか上手く足がズボンを通らず、そのままうつ伏せで倒れている健の上に覆い被さるように倒れた。


「いてて・・・・・・・・・・」

「これはどういうことですか!」


 え!? と驚いて顔をあげると、れみが室内に入っていた。仕切り戸の前で立ち尽くしている。


「ちょ、なんで入れたの!?」

「大家さんからもらったんです! 妹だと説明したらもらえました!」


 あのくそ大家ああ! だから管理意識ガバガバすぎんだろうが! 訴えてやる!


「そんなことは今はどうでもいいんです!」

「俺にとってはどうでもよくないことだよ!」

「うるさいです! それよりも兄さんがまさか男の人とそんな関係になっていることのほうが問題なんです!」


 え? どういうこと?


「兄さんがそっちの道に進んでいたとは・・・・・・敵は小田先輩じゃなくて長井先輩だったんですね・・・・・・・・・予想できなかった伏兵です・・・・・・・・・。これじゃあもうどうしようもないです! 矯正不可能です!」

「え? え?」

「別に恋愛対象が同性だからではありません! 昨今そういった問題は世界的にみても広がっているので完全に否定するつもりはありません!」

「ちょっとれみ? ほんとなにいってんの?」

「むしろBLや男性同士の恋愛は日本でも戦国時代衆道と呼ばれてたしなみとされていました! 私もそれについては個人的に理解しています! ええ! おおいに!」

「BL? なんのことだよ。わかるように言ってくれ」

「まだ白をきるんですか! 兄さんと長井先輩は交際しているんでしょう!」

「は?」

「だから二人で裸でいて私が来て焦って今もそんな体勢でいるんでしょう!」


 ゆっくり、ゆっくり、とまった思考を再開させてようやくれみの勘違いを把握し納得する。


「いや違う違う。俺と健はそんな関係じゃない」

「素直に言えないのはわかります! やはりいまだろいろと波紋を生んでいる問題ですし、差別・偏見もあるでしょう! けど私にまで隠さないでください!」

「だから違くて」

「けど大学生にはまだ早いです! ちゃんと二人で世間と戦える立場になってからでないと! 大学でも噂になりますよ! むしろ私が噂を流します! そして二人を別れさせます!」

「お前ほんとちょっと落ち着け! 意味不明になってんぞ!」

「私だって衝撃を受けているんです! 兄さんに恋人がいてその人が男で既に肉体関係があったなんて複雑すぎます! 一気にとクロスカウンターとドラゴンフィッシャーブローとデンプシーロールを喰らいました!」

「お前以外とマニアックだな! とにかく落ち着け!」

「つまり私の本当の敵はこの長井健二郎ということです!」

「頼むから話を聞いてくれえええ!」


 もう収集不可能。混乱の極みにあるれみは聞く耳もたない。

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