元義妹との仲を、あれこれ邪推される。
「なぁなぁ瞬。れみちゃんとどこまで行ったんだ?」
他の研究室とは一線を画している。外からの光と温度を遮断して殺風景な打ち放しのコンクリートの内壁が陰湿さを醸しだしている。
天井から煌々と照らされる照明は、隅々までの暗い雰囲気を取っ払う手助けには及ばず、馬鹿でかい実験装置の類類と床に散らばっている試験体の破片とセメントの匂いで充満した室内をただありのままの広さと手狭感をひしひしと伝えている。
ここでは実験に使われる試験体の作成作業と保管、そして規模の大きい実験を行っている。一~二年生のときに何度か簡単な実験と講義で使ったけど、本格的に使用したことはない。
夏休みが終わったら本格的なテーマを与えられたそれぞれの学生による実験と作業が始まる。それより前に先輩たちの研究と実験を手伝えばスムーズに実験ができる。
先輩たちと仲がいいという理由だけでなく、研究室に入り浸っているのはそんな邪な考えもある。それに、将来的に研究室に配属されるときの研究テーマの決定や資料作成の役に立てられるし。
一石二鳥。しかも先輩たちもそれを受け入れているし。過去の自分たちと同じだったからだろう。
「なぁなぁ、もうベロンチュした?」
そう考えている学生は俺たち以外にもいるけど、今日は残念なことに健と俺だけ。そのせいでここ実験室の掃除と試験体の用意、機材の手入れが大変なのだが。
とりあえず、養生スペースから小さいコンクリートを引き上げていく。
大小様々な石がむきだしになっている表面を軽く雑巾で拭き取る。前もってインクで描かれているので、実験で使う用途、順番ごとに並べた。一息ついたところで、合間に気づいて健と話したことをメモに記入、試験体を写真に収めていく。
「太もも触った? 脇わさわさした? お腹なでなでした?」
それから、先輩の今日の実験の目的を印刷した用紙を眺める。手順を確認し、ビデオカメラもきちんと動作しているし、あとは先輩の到着を待つだけ。
今回のデータを記入する準備も整っているし。額の汗を拭って、ここまでのことを振り返る。
もし自分だったらどんな研究をするか。先輩の研究・実験を将来的に自分の研究の応用に糧にできるんだから、少しも無駄にはしたくない。
「耳舐めた? 咥えた? 吸った? 髪の毛ハムハムした? 肩――――」
「うるせぇいい加減にしやがれ! 段々と気持ちの悪い質問してきやがってさすがに無視できなくなってきたわ!」
「女の子の唾ってどんな味すんの?」
「しかも更に質問を続ける胆力なんなの!?」
「いいじゃねぇかよぅ~~。ちょっとくらい教えておくれよぅ~」
奇麗にした機材に両腕を載せて上体の体重をかけて前のめりに。
どこか乙女チックな体勢とキラキラとした表情は、自分が知らない知識についてへの欲求がこれでもかってくらい凝縮されたワクワク感。そして性への果てしない欲望がこめられたギラギラさがミックスされている。
講義でも実験でも手伝いでも、これくらい意欲的になればいいのに。
というか健は別にモテないわけではない。普段は気軽に接せられるし、男女問わず友達も多い。好感も大勢から持たれている。
しかし軽薄さ+下心満載+ガツガツとした恋愛への姿勢=マイナス評価に繋がっている。黙っていれば格好いい、顔は普通、と言われているのに。
なにより恋人いない歴=年齢という経歴が足を引っ張っている。
俺も人のことはいえない。人並みに性欲はあるし恋人もほしい。合コンにもいくし、女子を異性として意識してしまうことも多分にある。けど、無理して恋人を作る気はない。
欲が薄い、高望みしている。誰かに例えられたっけ。でもそうじゃない。
友達と遊んでいるときと先輩・後輩と過ごしている時間は楽しい。だからといってそれが個人への恋愛感情に発展はしないというだけ。
まぁ、健が間近にいるから反面教師的存在になって、俺の心にブレーキをかけているという可能性もあるけど。
「なぁなぁ、女子高生が今はまってるモンってなに? というか女子がいいなっておもう男ってどんなの? れみちゃんと一緒にいたらそれくらい話すだろ?」
あれ? だとしたら・・・・・・・・・。
もしかして俺が大学で恋人いなかったのってもしかしたらこいつのせいなんじゃ?
こいつと友達になってたらずっと恋人いないままなんじゃ?
「この疫病神め」
「急になんだよ!?」
「うるせぇコンクリートに混ぜて固めて夜の海に沈めんぞ」
「こえぇよ! もしそんなことしたら俺だってやり返すぞ!」
「どうやってだ」
「まず頭を殴って気絶させます。そのあと頸動脈を切ります」
「普通に殺人じゃねぇか!」
「大丈夫、安心してください。その後、血抜きをしたあと内臓を全部出して水洗いします。体は焚火で丸焼きにして皮と毛を焼き落とします。そして外側が焼けた後、お腹にお米と野菜を入れて縛って閉じます。そのあと塩、香辛料を振りかけて鍋に入れて内臓と一緒に煮込みます」
「どこの部族の儀式だ! カニバリズムも真っ青な調理法じゃねぇか! しかもちょっとうまそうだし!」
「そのあと、事情を知らない先輩・知人を呼んでパーティーを開いて食べて証拠を隠滅、共犯にします。最後に残った骨を砕いて思い出と一緒に海にばらまきます」
「とんでもない周到な殺人計画になったぁぁ!」
「でもれみちゃんの家に行ったりしないん?」
「しかもこの流れでそこに戻るんかい! へこたれねぇなお前は!」
まぁ面白かったからいいけど。
「なぁいいじゃねぇか。先輩もまだ来なさそうだし。純粋に友達がどんな交際をしてるか興味があるんだよ」
「・・・・・・・・・別に普通だよ。そういうスキンシップとかえろいこととかまったくやってない健全な交際だ」
嘘をついているという後ろめたさで、バレないか気が気じゃないけど、なんとかそれらしい話をでっちあげる。
「え? まじでしてないの? なにも?」
「・・・・・・・・・してない」
「手を繋いだり? イチャイチャとか? 食べさせあいっこも?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・してねぇよ」
「こっち見ろこら。しかもすっげぇ間があったぞおい」
うるせぇ。つい最近したけど、すげぇ恥ずかしかったんだよ。
しかもそれを妹としたってことで、今更おもいだして死にたくなるんだよ。
ドキドキしちまうんだよ。
「そうかぁ。でもまさかお前がまじであの子と付き合うとはなぁ。ナンパとかしない主義だっただろ」
「主義っていうか、できる性格じゃねぇし、したくないだけだ」
街でよくしている奴をみるけど、良い感情を抱けず眺めていた。俺にはそんな勇気もない。
「そうかぁ。まぁ運命の出会いってあるもんだからなぁ。けどそんな出会い方だったら相手の親はいやがるんじゃね? 自分の娘がナンパしてくる男と付き合うって、俺だったらショックだし認めたくないなぁ」
くそ、健のくせにまともな一般常識をのたまうとは。
「実際どうなん? れみちゃんの両親ってお前のこと」
「・・・・・・・付き合いはじめたのが最近だから、れみはまだ言ってない可能性のほうが高いよ。それにあれくらいの年頃だったら親に色恋沙汰のこと喋らないだろ」
「まぁそうかもしれないけど。挨拶したり会ったりするのも視野に入れないとだめなんじゃねぇの?」
れみの両親に会う。そう健に指摘されて、そんな可能性もあるんだって初めて気づいた。
想像できたことだ。周囲に恋人として振る舞っていれば、そしてかつて義妹だったれみと会っていれば、それだけあの人達とも会わなくちゃいけない可能性が少しでもある。
自然なことだ。
けど、あの人の顔を思い浮かべてしまい、嫌悪感と憎悪、怒りでどうしようもなくなって。
ぞっとするほど嫌な気分になった。
「どうした? 今からナーバスになってんのか?」
「・・・・・・・・・え?」
「ひでぇ顔になってるぞ」
「あ、ああ。そうかもな」
「下痢と腹痛と頭痛が同時に来てるときギャルゲの発売日が延びたのを知ったときの顔してるぞ」
健のボケに、なんとか力なく笑って返す。
「一生できる気がしないわ。れみの両親と会うのって」
「まぁ緊張するわなー」
緊張ではない。できれば一生会いたくはないだけなのだ。
れみの義母、つまり俺の実母に。




