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元義妹、親友にイチャイチャを見せつける

 疲れたやりとりを交して、店を後に。


 れみが下着を買ったのかどうかは・・・・・・・・・察してほしい。ただでさえ大騒ぎと呼んで差し支えない三人の喧噪が繰り広げられて、外に出た後もまだ若干余韻が残っているのだから。


 まだ少し時間があまっているので、駅まで散策することになったはいいが、不安が残っていたけど余計な杞憂だった。まりあちゃんが朗らかに質問したり明るい感じで話題を振ってきてくれて、楽しい時間になっている。


 れみもいつもと違って楽しそうにしているから、やっぱり仲良しなんだなって嬉しくなった。


「兄さん。手を繋ぎましょう。それも貝殻繋ぎで。恋人なのに貝殻繋ぎしないのは不自然です」

「いや、恋人でも貝殻繋ぎするのはごく一部なんじゃ」

「繋ぎ方でラブラブさや親密さを推し量ることは可能です。兄さんが私にぞっこんに惚れ込んでいるイチャイチャカップルと信じさせるには、貝殻繋ぎしかありません」

「ぞっこんに惚れ込んでいる設定重要かな!?」


 気恥ずかしさがあって中々首を縦に振れない。二人でやっていることがまりあちゃんに伝わったのか。


「なにしてるんすか?」

「いえ別に」

「ふぉ!?」


 れみは咄嗟だったのか。脇の下に腕ごと突っ込んで絡みつかせる。そのまま右手で左手を掴む。腕を組む+貝殻繋ぎという難易度高めのことを。


 そのまま歩きだそうとするけど恥ずかしがっているのか膝が曲がらず固い足どりで、手と足を同時に出す。さながらロボットのよう。


 俺は俺でれみの体が密着しているせいで胸が当たっているから照れてしまう。


「二人とも、なんか歩き方ロボットみたいっスよ?」


 どうやら伝播していたらしい。微妙に歩きにくいしタイミングも歩幅も合わない。逆に怪しまれたんじゃ。


「あ、あそこにクレープ屋があるぞ! 少し休もう!」


 ちょうどいいタイミングで移動販売をしているクレープを発見。これ幸いにと二人を誘って、そのまま買って手頃なベンチで休憩していたんだが、れみは腕を解放してくれない。


「兄さんのはバナナクリームでしたよね」


「ああ、そうだけど」


「じゃあ一口ください」


「っ!?」


 そう言うとれみは目を閉じて口を開ける。 意図が汲めないでいるとれみに肘打ちを喰らった。


「こ、恋人は普通食べさせあいっこをするものだと。まりあの前ですることで恋人であると証明できます」


 そこまでしなくても・・・・・・・・・。れみは躊躇っている気配を敏感に感じ取ったのか早くしろと視線で急かしてくる。しかたなしに、差しだす。


「ほら、れみあ~ん」

「あ、あ~んです」


 まりあちゃんに気づかれやすいように大声でわざとらしく。言い出しっぺのれみは頬を少し染めながらおずおずとはむはむとクレープを食べていく。なんだかその姿がハムスターみたいで和んだ。


「兄さんのクリームとバナナ、とってもおいしいです」


 変な誤解されそうだからあまり言わないでほしい。


「ん? れみ、クリームついてるぞ」


 れみはどこかわからないようでしきりにティッシュで口を拭ってるけど反対だし当たっていない。微笑ましくなって自然な流れで、俺が拭いてしまった。


 懐かしくなったんだ。小さい頃と重ね合わせて。他にもついている箇所はあって何回か吹いてしまう。れみはもごもごとしながらさっきよりも明らかに恥ずかしがっている。


 なにが恥ずかしいんだろう。昔は普通のやりとりで喜んでいたのに。


「なんか恋人っていうよりも兄妹ってかんじっスね」


 ギク! 


 おもわず身構える。まずい、やりすぎてしまった。


「いえ、これは序の口です。ここから激しく過激になっていくのです。それが私たちカップルの普通なのです」


 れみは自らのクレープに指を突っ込む。そしてチョコレートをたっぷりの指を差しだしてくる。


 「はい、あ~んです」


 こいつなにしてんの。テンパりすぎて自分がしていることわかっていないんじゃないか。流石にこれを舐めたり口に入れるのは・・・・・・・・・だめだろ。


「お願いです。あ~んしてください」


 れみの顔はまりあちゃんから見えていない。切羽詰まったかんじに義兄心を刺激された俺は、仕方なく・・・・・・本当に仕方なく・・・・・・・・・れみの指を咥えた。


 一体俺はなにをしているのか。頭が沸騰しそうだ。


 シチュエーションと行為のいやらしさでぐわんぐわんと脳が揺れてまともな思考ができず、義妹の指についたチョコを舌で舐めとる作業のみを一心不乱にしつづける。


 くすぐったいのか、れみはしきりに体をふるわせくねらせ、時折大きく反応する。切なそうな声を喉で必死にとめているのが逆に扇情的で瞳も潤んでいる。体勢が辛いのか、右手を俺の左胸に置いた。


 舐め終わって、口腔かられみの小さくて細い指が抜き取られた。唾液が線上になって垂れて、ぷつんと途切れた。唾液でぬめぬめの指は太陽光に反射して、艶めかしい。


「ドキドキしていますね」


 手から心臓の鼓動をかんじとったのか。自覚がある俺には反論できない。


「妹の指を舐めて、興奮したんですか?」


 否定するべきだったのに、声が出なかったのはまだ余韻が残っていたから。それとれみの荒い息と汗をかいている表情が、どうしようもなく女としての表情でしかなくて釘付けになってしまっているから。


「さっきのお返しです」


 ここまでやるのはまりあちゃんを信用させるためか。それともれみの意地なのか。


 とにもかくにも。いけないものを見てしまったと恥ずかしがって手で顔を覆い、けどしっかり指の隙間からばっちり確認しているまりあちゃんの反応から必要なことだったんだと、妹のためなんだと必死に自分に言い聞かせた。


「いやぁ、ありがとうございましたっス。パイセン」


 そうこうしている間に、まりあちゃんが帰る時間がやってきた。最初はどうなるかと不安だったけど、なんとか乗り越られたと胸を撫で下ろす。


「私も恋がしたくなりましたっス。けどれみのあんな姿とか表情見れるなんて、よっぽどパイセンのこと好きなんスねぇ」

「れみっていつもはあんなかんじじゃないのか?」

「ええ。もっと静かだし穏やかだし。あんな風に感情的になったり人間性だしたりするのなんて皆無っス」


 人間性って・・・・・・。仮にも友達に対して。けど、それだけ必死だったってことか。よっぽどまりあちゃんのことが大切な友達なんだな。


「あ、そうだまりあちゃん。最後なんだけど」

「はい?」

「もしかして今日れみのこと尾行したんじゃないか?」


 ピシ。表情が石のように固まった。


「どうしてそう?」

「まぁなんとなくかな」


 まりあちゃんがここに来る理由がわからない。


 本人も最初明言しなかった。けど、スーパーで買い物しているとき俺たちを観察していたって趣旨の発言をした。なのに話しかけてきたときは偶然見つけたって言い方。矛盾している。


 この子の性格からするとすぐにれみに話しかけにいったんじゃないだろうか。そこから違和感を覚えた。


 それに、一度買ったものをアパートに置きに行ったとき。まりあちゃんは初めて通る道なのに知っているような素振りで歩いていた。俺たちに案内されてたからってのはあるかもしれないけどそれにしても足どりがしっかりしていた。


「いやぁパイセンお見事っス。探偵になるべきっスよ」


 タハハ、と掲示板と時計で電車が来る時間を把握しているれみをチラ見し、一歩俺に近づいた。


「れみ、最近遊んでくれなかったんス。課題とか自由研究とか一緒にやろうって夏休み前は約束してたのに。用事があるって言われて断られること増えちゃって。でも具体的には教えてくれなくて。ずっともやもやしてて。今まで秘密とかなかったのに。それでアポなしで家に行ったらちょうどれみが出掛けるところだったんで、気になっちゃって。そしたらパイセンのアパートに入っていったり二人で出てきて驚いたっス」


 俺のことで、友達付き合いに影響を与えている。純粋な興味と友達を心配して、そして少しの嫉妬もあったんだろう。


 この子を責めることはできない。それだけれみのこと友達だっておもってくれてるんだから。


「その、すいませんス。尾行なんてしちゃって。軽はずみだったって反省してるっス」

「いや、俺が悪いんだよ。れみには内緒にしておく」

「けど、安心したっス。パイセンと一緒にいるれみ、本当に幸せで自然で、前からの知り合いっぽくて。なんというか本当に好きなんだってわかったっス。そうじゃなきゃ通い妻になんてならないし」

「通い妻・・・・・・ね・・・・・・」


 きっとその好きっていうのがどうものなのか、三人とも違っている。通い妻になっているっていうのも。


 本当は元義理の兄妹で、今まで会っていなくて俺のところには生活を矯正するために通っていると教えたらこの子はどんな顔をするだろう。


 せっかくの努力を水の泡にしてしまうからできないけど、想像すると嘘をついた事実が今更ながら重くのし掛かる。


「これからも、れみのことよろしく」

「お父さんスか!」


 そんなやりとりを不思議そうに眺めているれみに、適当にごまかしていると電車がきた。


「じゃああっしはこれにておさらばするっス。今度はもっとすごい自慢話とかイチャイチャとか期待してるっス」


 また来るんかい。心の中でツッコんだだけに留めて、見送った。


「いい友達を持ったな」

「そうでしょうか」

「そうだよ。それと、友達のことも放置しちゃだめだぞ。たまには二人で遊んだりして」

「そう言って私が矯正しにくるのを減らそうって魂胆では?」

「そうじゃねぇよ。むしろずっと来てほしいくらい」

「向上心がないんですか? 自分の生活を改めるつもりがないんですか? いつまでも私に頼りきりになるつもりですか? それでも年上ですか? これだから兄さんは」


 夕焼け空。影が細長く伸びた道。温い暑さを多少吹き飛ばすそよ風。感傷的な風景に慣れた距離感と会話が心地いい。


 不意にれみと恋人のように振る舞っていた記憶が蘇って。必死でドギマギしそうな恥ずかしさを消そうとまた躍起になる。

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