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元義兄、先輩に呆れられる

先輩が我がアパートで暮らすようになって、早数日が経った。


 お互いが気遣って工夫を凝したからか、当初考えていたラッキースケベなハプニングはない。理性と煩悩に揺れることにも慣れ、いつしか先輩が家にいるのが当たり前になっていた。


 今まで何人か泊まったことはあったけど、一緒に住むなんてことはなかった。だからだろうか、誰かが家にいる、待っているという感が強くて帰るのが楽しみになっている今日この頃だ。


「あ、お帰りなさい~~~」


 バイトを終えるとすぐ見える台所で先輩が料理に勤しみながらニコニコと破顔しながら出迎えてくれる。ラフな服の上にはエプロンを身につけていてぱっと見若奥様だ。


「今日の夕食なんですか?」

「肉じゃがだよ~~。それとじゃがバターとじゃがいもガレットと煮っころがしとじゃがいもの酢漬けと~~~」


 スーパーで安売りしてたのかな?


「なにか手伝うことあります?」

「ううん? もう少しでできるから休んでて? あ、それともお風呂に入る?」

「うう~~~ん・・・・・・お風呂はあとで」

「おっけ~~。じゃあリビングに行ってて?」


 なんだろう。疲れているのに身も心も癒やされてる充実感。いくらでも頑張れるっていうやる気。


 新婚夫婦ってこんなかんじなのかな?


 はは、悪くない。


「あ、美味しい!」

「よかった~~~。初めて作るから心配だったの」

「本当本当! 毎日食べたいくらいですよ」

「そう? でもれみちゃんと比べたら

「いやいや。なんでれみが出てくるんですか。れみにはれみの、先輩には先輩の良さがありますよ」

「もう、口が上手いんだから。でもバイトどうだった? 大変? お昼前には帰れるんじゃなかったの?」

「まぁ人が少なかったから仕方ないですよ。それにその分稼げましたし」

「でも、無理しないでね?」


 先輩の私物が増えているからか、二人で暮らしてるって生活感が濃くなっている居間で食卓を囲んでいるとなんともいえない安心感が。


 ああ、いいな。誰かと一緒に暮らすって。


 もう一生このままでいいかもってくらい幸せだ。


 タラタラタラタラタラタタン・・・・・・・・・♪


 携帯が鳴り響く。幸せな時間に冷や水を浴びせられた気持ちだ。


【今なにをしていますか?】


 れみからだった。なんて返そうか悩んでいると連投で来た。悩んだあげく、簡単に食事していると返した。


 携帯をしまって食事を再開すると更にもう一回。携帯が震えた。


【なにを食べているんですか?】

【兄さんはずぼらですから私がいないと手を抜く傾向にあります】


 苦笑しながら先輩に文面を見せる。


 れみは俺と先輩が一緒に暮らしてから連絡する頻度が増えた。ちょうど文化祭の時期と重なってしまって来ることが難しくなったのもあって心配なんだろう。


「先輩の美味しい芋料理食べてるから安心しろよ・・・・・・・・・っと」


 写真と一緒に簡単な文面で返す。


【ダブルギルティ】


 どういうこと!?


【芋だけではないですか。なんですか。ドイツ人ですか?】


 ドイツ人が芋しか食べないって偏見やめろ!


 まぁれみからしたら一つの食材を食べるっていうのは栄養バランス的に気になるのか? それがギルティだとしても、ダブルってなんだ?


 すると、れみから写真が送られてきた。お昼ご飯なのだろうか。お弁当箱に入っているポテトサラダが目立つ撮り方。少し焼き色がついていて美味しそう。


 だけどなんでこの写真送ってきた?


【どうですか?】

【どうですかってなにが?】

【ギルティです】


 だからなんで!?


【私とポテトサラダに謝ってください】

「意味がわからんっ!」

「なに~~? どうしたの~~~?」


 ひょい、と画面を覗きこむ先輩は、内容を読んでいって「ああ~~~・・・・・・・・・」と納得したかんじに。


「え、なんですか先輩?」

「れみちゃん可愛いわね~~」

「どういうことですか?」

「瞬くん本当にわからないの? それでもれみちゃんの元義兄さん? 死んだら?」


 ちょ、酷い。


「れみちゃんは嫉妬してるのよ」

「は?」

「今まではれみちゃんが瞬くんの料理を作っていたでしょ? でも今は他の人のご飯を食べて喜んでいる。自分の料理を否定されたようなものじゃない」

「そんなもんですか・・・・・・・・・?」

「ファーストガンダムで例えるならアムロがガンダムを降ろされそうになった回と同じっていえばイメージできるかしら」

「脱走しちゃうほどのショック!? 最終的に私が一番ポテトサラダを上手く作れるんだ・・・・・・・・・! ってなちゃうってこと!?」

「もしくは空の鍋を延々と掻き混ぜ続けるヒロインと同じくらいのショックを受けたとか」

「懐かしい! アニメとゲーム版の違いで驚きすぎた作品でしょそれぇ!」


 というかこの人いくつだ。前々から俺達のネタについてきてくれるけど、同世代の知識じゃないよ。


「どちらにしろ、れみちゃんからしたらお兄ちゃんをとられた! 悔しい! ってこと。むしろ寝取られたって考えに近いかしら」


 女の人が寝取られたってあんまり言って欲しくないなぁ。なんか個人的にヤだ。


 というか胃袋を寝取られるってなんだろう。


「瞬くんだったらどう? 今まで貴方を慕っていたれみちゃんが別のカッコいいイケメンが家族になって、貴方と一緒に遊んでいたゲームややりとりで盛りあがって、そっちを兄さん兄さんって仲よさげにしてたら」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・刺し違えますかね」

「そこまで・・・・・・・・・いえ。そうでしょう?」


 成程。そういうことか。


 急にリアルに共感できたぞ。


 れみにとって料理、特にポテトサラダはそれくらい大切なことだったんだ。


【れみ、ごめんな】


 れみを不安を、悲しみを払拭さるため、自分自身の偽らざる本心を携帯に載せる。


【大丈夫。俺が一番好きな芋料理はフライドポテトだ】


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


【厳密にいえばマスタードソースとの相性が最高。永遠に食べられるね。うん】


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「ふぅ、これで大丈夫・・・・・・・・・ってなんですか先輩?」


 お前マジか・・・・・・・・・? なにやってんだ? おい・・・・・・・・・嘘だろ?


 って、凡そ人間が人間に向けない引き攣った顔になっている。


「瞬くん・・・・・・・・・女の敵って言葉知ってる? デリカシーは? 乙女心は?」

「?」

「うん、もういいわ・・・・・・・・・私が言うのもあれだけど、れみちゃんが不安になるのも納得ね。うん。苦労するはずだわ・・・・・・・・・」

「???」

「きっとれみちゃん怒った内容送ってくるわよ。賭けてもいい」

「なんでですか? 流石にあそこまでやれば――」

【兄さんなんてもう知りません】


 なんで!?


「あれだけ言ったじゃない・・・・・・・・・」

「え、ええ~~~~~?」


 おかしい。なんでだ?


 ポテトサラダが一番好きだなんて言ったら先輩に失礼だし、どっちも美味しいって答えていたらどっち付かずになるじゃないか。


「でも、れみちゃんはよっぽど瞬くんのことが好きなのね。可愛いわ」

「好きって、違いますよ。ただ単に俺と先輩が一緒にいて不安がってるだけですよ」


 れみになんて返すべきか、反応してくれるのか考えながら携帯を操作しているので、片手間に会話を続ける。


「でも、血は繋がってないでしょ?」

「小さいときから知ってるし。一緒に暮らしてたんですからそんな気になんてなったらダメでしょ。この間の件だって大変だったでしょ」

「ダメ?」

「そう。ダメ。俺はあいつの兄貴なんですから」


 とりあえず、れみに何通か送って、反応を待つ。その間に食事を再開する。少し冷めた料理とテンションに、トークダウンが否めない。


「うう~~~~ん・・・・・・・・・でも、れみちゃんも同じ気持ちなのかにゃあ~~~??」

「当たり前でしょう。そりゃあれみが俺のことを慕ってくれてるのはわかってますよ。でもそれは兄として、妹としてです。それに事情が特殊ですから」

「事情・・・・・・・・・そうね。事情。誰にでもあるものね」

「? 先輩?」

「お義母さんと会うのってまだ不安?」


 気のせいだったのだろうか。先輩がほんの一瞬、寂しそうな顔をしていたけど。


「私が言えた義理じゃないけど、嫌? じゃないの?」

「嫌・・・・・・・・・っていうよりも、緊張します。なにを話せばいいんだろうって・・・・・・」

「そう。そんなもんか・・・・・・・・・でも、いいきっかけかも」

「きっかけ?」

「!? う、うん。瞬くんにとってもお義母さんにとってもれみちゃんにとっても。皆にとってのいいきっかけって意味」

「それって・・・・・・・・・」

「良い考えが浮かんだの」


 いつものような笑顔で、おもわず安心させるオーラを放っている。頼りがいがあってつい頬が緩む、いつもの先輩。けど、少し決意を含んだ真剣さ。


「私も協力する」

 

 わくわくとなにかを期待している子供っぽさがあった。

 

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