元義妹、襲来す
「ううう~~~~ん・・・・・・・・・」
妙に違和感がある寝心地を感じながら目覚めた。
重い瞼を開けられず、鼻につくのはお酒とつまみの香り。記憶を手繰るのが少し億劫なレベルの煩わしさ。二日酔いじゃないけど、気怠さがある。
そうか。昨日は結局お酒飲んじゃったんだっけ。
先輩とのゲームが盛りあがりすぎて勝って負けてを交互に繰り返し、このままじゃ終われねぇ! ってなったテンションのまま食べ物とお酒がほしくなって。
その後どうなったか定かじゃないけど、きっと寝落ちしてしまったんだろう。
今日は休日でさしたる用事もなかったはず。窓から日が出ているのが見えるってことはまだ八時か九時か十時か十一時か・・・・・・・・・ともかく。夜じゃないってことはたしかだ。
よし、二度寝しよう。
ゆっくりと思考を放棄してそのまま寝入ろうとするけど、床が固いからか、中々眠りに落ちない。
というか、なんだか重い?
「うう~~~~ん・・・・・・・・・」
なのにどこか柔らかくて気持ちいい。おもわず抱きしめたくなるくらい。きっとこのまま抱きしめたらさぞかし気持ちいいだろう。
「ムニャムニャ・・・・・・・・・すぅ、すぅ・・・・・・・・・」
いや、ウチにそんなものあったっけ?
「すぅ、すぅ・・・・・・・・・」
というかさっきからなにか聞こえる? 寝息? なんだ?
薄目で正体を見極めようとした。
「!?」
目玉が飛びでそうになった。
先輩の立派な膨らみが、俺の胸の上で潰れてらっしゃる。
谷間が超超超至近距離にあって眼下に収められることができる。
ムニムニとした弾力と柔らかさは胸板が神経になったのかってくらい過敏に感じとり、服越しであってもそれでいて重厚感がある。
え? 夢? すぐそこにこんな素敵なおっぱいがあるなんて。
違う。おっぱいじゃない。
先輩が仰向けに寝ている俺に重なるようになっているんだ。
肩付近に頭を載せて大の字型になっているから、先輩の顔よりまずおっぱいに釘付けにならざるをえなかったんだ。
いや、なに冷静に解説しているんだろう。
このままじゃヤバい。眠気もバッチリ吹き飛んだ。そのせいでより先輩のことを
辛抱たまらんっっっ。
「スゥゥ・・・・・・・・・」
「ん゛ん゛っ」
しかも先輩の鼻息が首筋にダイレクトに当たってしまう。悪寒に似ているゾクゾクとした快感が背中を走りまくる。
だめだ、このままじゃ変な気分になる。
加えて今は朝だ。男性特有の生理現象がいつフル稼働状態になるかわかったもんじゃない。できればこのまま擬似事後感を味わいたいのは山々だけど、いつか我慢できなくなる。
心のクラウドメモリーに思い出として永久保存、バックアップとして瞳に焼きつけながら先輩に呼びかける。
「ちょ、先輩。先輩」
「んん~~~~・・・・・・・・・」
起きる気配がない。
というか起きてしまったら、それはそれで気まずくなるんじゃないか?
なにがあったってわけじゃないけど、
かくなる手は一つ。先輩を起こさないようにゆっくりと体を移動させ、この天国から逃げるしかない。
けど、それは中々難しい。そぉ~~っと先輩の頭を支えつつ、衝撃を落とさないように左手で軽く持ちあげる。ずりずりと右腕を抜きながら肘を立て横にスライド。フローリングに挟まれながら先輩の服に引っ張られたせいで、腹まで出ていたシャツが上方向へと捲れていく。
気分はプリズンブレイク。緊張感を維持しながらゆっくり、ゆっくりと。もうすぐで突破できる。
「ウウン・・・・・・・・・」
「!?」
嘘だろ? 先輩が足と手でがっしりと絡みついてきた! 先輩との距離がまた逆戻り、いやむしろ悪化している。ほぼ0だ。
髪の毛が顕わになった俺の乳首にかかる。生温かい吐息と相まってさっき以上のゾクゾクとした感触、快感がビリビリと全身に広がって仕方がない。
しかもそれだけでは終わらない。
「んんむぅぅぅ・・・・・・・・・」
「え? ちょ、先輩?」
「ちゅうううう・・・・・・・・・」
「んんんんんんん~~~!?」
先輩のおそらく口。それが俺の乳頭に触れていたかとおもうと生温かくてザラザラとした柔らかい舌が当たって目の前が眩んだ。次の瞬間。
ちゅううううううううううううううううううううううううううううううう・・・・・・・・。
先輩は俺の乳首を吸い出したのだ!
「ちょ、痛い痛い痛い痛い!?」
先輩の吸引力は並みではない。
ダイソンかってくらいの力でいつ千切れるかという痛み。昔罰ゲームで洗濯ばさみチャレンジをしたときと同じだ。乳頭から血が滴っていて乳首って再生するの? と不安になっていたトラウマが脳裏に蘇る。
しかも時々歯でギリギリとしてくるもんだから死にそう!
「先輩お願い起きて! 後輩の乳首を殺さないで!」
「んん~~~・・・・・・・パパ~~~~・・・・・・」
「どんな歪んだ夢見てるの!? パパじゃないから!」
「んんんん~~~・・・・・・・・・・」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
なんなのこの先輩。
人の乳首を壊そうとしておきながらなんでそんな赤ちゃんかってくらい満ち足りた寝顔していられるの!? 無邪気!?
「さっさと起きないと携帯で録画してことあるごとに送信して常に黒歴史の刑ですよ!?」
「じぃじ~~~・・・・・・・・・」
「夢の内容変わってる!? 頑なに男性近親者が出てくる夢ってなに!?」
こうなったら強硬手段しかない。先輩の頭を力のかぎり引っぺがす。
「ん、んんんんんん! ちょ、強いいいいいいいいい!!」
蛸のように伸びる唇が、きゅぽん、と外れた一瞬。日本酒の瓶を先輩の口に突っ込んで再度の襲撃を防ぐ。
そして足と手をなんとか一本一本外していき、そのままゴロゴロゴロゴロと体を転がし、ようやく死地を脱した。
「はあああああ・・・・・・・・・よかったあああああ・・・・・・・・・」
日本酒の空き瓶を抱きしめながらちゅうちゅう吸っている先輩を眺めながら、安堵の溜息をつく。
しかし、まさか先輩がこんなことをしてくるなんて。まさかあんまり外泊しない理由ってこれなんじゃないか?
人の乳首を噛みちぎる癖?
なにはともあれ、汗を多少かいてしまったし、先輩の唾液でベチョベチョだ。一回シャワー浴びてきたほうがいいかもな。
立ち上がって風呂場に向かおうとしたとき、なにかにぶつかった。
視線を下げると誰かの旋毛。そして後頭部。髪の毛。丸みを帯びた小さい肩に体躯。全体的に見覚えのあるシルエット。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
いや、嘘だ。
そんなことあるはずない。悪い冗談だ。
自分に言い聞かせながら一歩一歩、後退する。そのたびに予感は的中していたとばかりに心臓の鼓動が激しく脈打つ。
「れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・み?」
生ゴミを見るような目で鋭く、瞳孔が開ききった我が妹、れみが立っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いつからいたの?」
せめてもの望みを託して、たった一つだけ聞いた。
「オレンジアームズ! 花道オンステージ! と寝言で叫んでいたときからです」
「俺そんな寝言言ってたの!?」
「覚悟しろストロンガー! 財団エックスは不滅だ! とも言っていました」
「どんなカオスな夢見てたんだ俺!」
「兄さん」
「は、はい!」
「ツッコむよりも大切なことがあるのでは?」
心臓が鷲掴みにされる。
蛇に飲まれる蛙は、きっとこんな心境なんだってかんじの、圧倒的プレッシャー。自分はまったく万に一つも勝ち目もない、これから只死の審判を待つのみ、という独特の気配がれみから漂った。
「例えば・・・・・・・・・なにをしていたのか、という説明」
「こひゅ、こひゅ・・・・・・・」
喉がかぴかぴに渇く。
ブルブルとした体の震え。
ダメだ、逃げられない。
言い訳のしようがない。
いつからかはわからないが、さっきの一部始終とその前、俺と先輩が重なって寝ていたところまでバッチリと目撃されている。れみが勘違いをして怒ってしまうのも仕方がない。
だからせめて正直に話そう。
誤解を与えないよう、しっかりと真剣に話せばれみもわかってくれる。
「わかった、言うよ・・・・・・・・・」
俺は深呼吸をしながら覚悟を決めて言い放つ。
「・・・・・・・・・ポケモンしてました・・・・・・・・・」
れみの鉄拳が顔面にめりこんだ。




